デジタルには表現できない“味”がある!『リトル・ワンダーズ』のレトロフューチャーな世界観を生み出した16mmフィルムの魅力
『グーニーズ』(85)や『スパイキッズ』(01)を彷彿とさせる、悪ガキたちの冒険を描いた『リトル・ワンダーズ』(公開中)。メガホンをとったのは、これがデビュー作となる新鋭ウェストン・ラズーリ監督。映画冒頭に「SHOT ON Kodak 16mm MOTION PICTURE FILM」(コダックの16mmフィルムで撮影された劇映画)と画面いっぱいに映し出されるなど、16mmフィルムでの撮影にこだわったところがこの作品の特徴のひとつであり、その世界観や魅力的なキャラクターは第76回カンヌ国際映画祭や、第48回トロント国際映画祭など各国の映画祭で多くの称賛の声を集めた。
現在の映画界はデジタルでの撮影・上映が一般的といわれているが、クリストファー・ノーランやM.ナイト・シャマランらはよりコストのかかるフィルム撮影にこだわっている。また日本でも特別に『オッペンハイマー』(23)や『憐れみの3章』(24)のフィルム上映が実施され、多くの映画ファンが足を運んで話題となった。
いったいデジタルとフィルムの違いとは?フィルムにはどんな種類があるのか?少し駆け足で説明しつつ、『リトル・ワンダーズ』の撮影で使用された16mmフィルムの特性にも迫っていこう。
デジタル全盛のいま、フィルムで撮影する利点とは
1999年からはじまった『スターウォーズ』新三部作の公開を境に、映画の撮影・上映はフィルムからデジタルへの転換を果たした(ちなみに『エピソード1』は35mm撮影のためデジタル化は上映のみ。全編デジタル撮影・上映への完全移行を実現したのは2002年の『エピソード2』から。世界初の全編デジタル撮影を実現した商業映画は2001年のフランス映画『ヴィドック』)。その後、しばらくはフィルムとデジタル、両方のフォーマットが混在する時代が続いたが、2010年ごろを境にデジタル環境が急速に普及。2023年末現在、日本全国の映画館(シネコン含む)のスクリーン数は3653だったが、そのうちの3602スクリーンがデジタル上映である(映画製作者連盟調べ)ことからも、映画業界はほぼ完全にデジタルに移行したと言っていいだろう。
だが世間のデジタル化が進めば進むほどに、一方でアナログに対する注目が増してくる、というのはおもしろい現象だ。近年は、Z世代を中心としたレトロブームの様相を呈しているが、その流れでレコード、カセットテープ、フィルムカメラといったアナログフォーマットへの再評価が進んでいる。映画業界でも、フィルム撮影で育ち、「映画はフィルムでなくては」とこだわりを持つ大御所監督はもちろんのこと、フィルム時代を知らない(あるいは長きにわたってフィルムから離れていた)映像作家たちが、映像表現の一種として、フィルム撮影を取り入れるケースが増えてきている。
映画フィルムというと、映写機でフィルムをカラカラカラ…とまわしながらスクリーンに映像を映し出すもの、というおぼろげなイメージを持つ方も多いと思うが、ひと言でフィルムと言っても、8mm、16mm、35mm、70mmと、いくつか種類がある。この「mm」というのは文字どおりフィルムの幅の長さで、デジタルで言うところの「画素数」のようなもの。かなり大ざっぱに使用環境を分類するならば、8mm(家庭用)、16mm(テレビ用、劇映画用)、35mm(通常の劇映画用)、70mm(ハリウッドの超大作を上映するような大型劇場用)、IMAX 70mm(超巨大劇場用)といったところ。
そしてこれは様々な条件がからむため単純に比較はできないが、デジタルの解像度に換算すると、16mmは2K以上、35mmは4K以上、70mmは8K以上、IMAX 70mmは18K以上の情報量を持つといわれている。映画とはフィルムのひとコマひとコマの静止画の集合体であり、その静止画を1秒あたり24コマずつ、次々と送り出しながら連続してスクリーンに映し出すことで、映画たる動きを実現している(イメージとしてはパラパラ漫画に近い)。
デジタル化がもたらしたこととして、フィルム代、現像代、デジタルで作業するためのスキャン費用、運送費といった諸経費のコストダウン。そしてカメラの高感度センサーの発達により多少暗いところでも撮影しやすくなったこと。フィルムの残り量を気にせずに何度でもトライアンドエラーができることや、連続撮影などが可能となったこと。デジタルデータなのでCGなどの映像の加工が容易となったことなどが挙げられる。
逆にいえばフィルム撮影を導入するということはそれだけの費用と手間、制約などがあるわけだが、そうしたメリットとデメリットを考慮したうえで、作り手たちのなかには表現方法のひとつとしてフィルム画質を選択している者がいる。16mmフィルムでいえば、撮影した映像を通常の映画館でかけられる2K、4Kレベルの画像サイズにブローアップ(引き伸ばし)した場合、粒子の粗い独特のざらついた感触、光と影のコントラストが際立つコクのある映像が映し出される。その映像は鮮明な映像と比べて「夢」のようでもあり、「過去の記憶」のようにも見えるのだ。それはつまり観客を映画の世界に誘い、没入感の手助けをしてくれることとなる。