成田凌から目が離せない!拡張していく演技で片山慎三×つげ義春『雨の中の慾情』の幻想世界を体現
独特な役柄でも、勉強や特訓によって見事に自分のものにする成田
ファッションモデルとして芸能活動をスタートさせた成田は、これまで現代の若者を象徴するかのような役柄を数多く演じているが、大正~昭和を舞台とする周防正行監督作『カツベン!』はまた違った成田の魅力を味わえる作品だ。物語は幼い俊太郎が活動写真小屋に忍び込んで無声映画を盗み観るエピソードから幕開けする。そして窃盗集団の一味から逃げ延び、活動弁士=カツベンになる夢を叶えようとする俊太郎(成田)が、恋にトラブルにと大奮闘する姿が描かれていく。
俊太郎とヒロインの配役にあたってはオーディションが行われ、それぞれ100名を超えるライバルがいるなか成田と黒島結菜が抜擢されたが、 彼はこのオーディションのために、現役の活動弁士である坂本頼光の映像などを観て勉強し臨んだという。そして無声映画の登場人物にセリフを与え、物語の解説をするカツベン役を演じるにあたり、半年間の猛特訓の末にその独特の口上もマスター。コミカルな演技も披露し、この作品をサイレント全盛時代を彷彿とさせるドバタコメディへと昇華させた成田は、毎日映画コンクールで主演男優賞を受賞している。
どこまでも一途な浮気調査員から、数学ひと筋の恋愛下手な予備校講師まで…変幻自在な演技で観客の心をわしづかみに
また、彼の役者としての新たな一面を見せたという意味では、『窮鼠はチーズの夢を見る』(20)にも心揺さぶられた。行定勲監督が水城せとなの同名コミックおよび「俎上の鯉は二度跳ねる」を基に実写化したこの作品は、生涯忘れられない相手となった男性同士の恋愛模様をつづった狂おしい恋物語。学生時代から受け身の恋愛を繰り返してきた主人公の大伴恭一(大倉忠義)は、7年ぶりに再会した大学時代の後輩である今ヶ瀬渉(成田)から突然愛を告白され、運命の歯車が動きだす。初めて出会ってから8年もの間、恭一のことを想い続けてきた渉の一途な愛を、成田は恭一を見つめるつぶらな瞳の力強さで表現。嫉妬や葛藤しながらも、どうしようもなく恭一に惹かれていることが伝わるそのせつない演技にキュンキュンさせられた。
一方で、清原果耶とダブル主演を務めた『まともじゃないのは君も一緒』(21)の、人付き合いが苦手でコミュニケーションがうまくとれない予備校講師の大野役はある意味衝撃的だった。数学ひと筋の人生で“普通の結婚”を夢見る大野と、そんな大野に普通の恋愛を教えようとする女子高生の香住(清原)。成田はこの作品でイケメンなのにかなり残念な大野を見事に形成しつつ、後半になるに従いカッコよく見えてくるという離れ業のキャラクター造形を披露。また、予想外のキャラクターという点では、松井大悟監督が自身で手掛けた舞台を映画化した『くれなずめ』(21)も同様で、大切な仲間と過ごすくだらなくも最高に幸せな時間の愛おしさを教えてくれる監督の実体験を基にしたこの作品において、成田は大きな秘密を抱える優柔不断だが心優しい主人公の吉尾に温もりを与えている。
『雨の中の慾情』では、まるで別人かのような様々な表情で観る者を魅了する
最新作『雨の中の慾情』で成田は、ある時は感情を見せない淡々とした口調で不穏な空気を創り出し、またある時は駆け引きのできない実直な“恋する青年”の顔をのぞかせて…と、目まぐるしく移り変わる世界観の中で生きる主人公の義男を体現。衝撃的な冒頭シーンから、漫画家としての本能が触発されたある種の幻想的なシーン、そして暑い夜の濃厚なラブシーンまで幅広く対応可能な役者としての抽斗(ひきだし)の多さには驚くばかりで、スクリーンから目が離せない。
出演にあたり、成田は「片山監督の作品は生半可な気持ちで参加できない」と言いつつ、「俳優として挑戦すべき作品だった」と語っている。劇中、「相変わらずいい顔するよな、義男くんは」という、義男の複雑な気持ちが漏れ出た顔を揶揄するセリフがあるが、言葉でなく表情を使ったコミュニケーションで観客に感情移入させる彼の演技は秀逸だ。
男女3人の欲望と思惑が複雑に絡み合い、関係性が刻々と変容していく本作において、片山監督が紡ぐ独創的な世界に呼応しつつ、義男の心象風景を見事に描きだした成田。物語が展開していくにつれ自らもまた演技を拡張させていく、その無尽蔵な役者としてのふり幅を劇場で堪能してほしい。
文/足立美由紀