「皆さんのお芝居の感じや作品との向き合い方なども知れて、本当に充実した時間でした」
――本作は6人全員の“表の顔”と“裏の顔”が見え隠れするところが大きな見どころですが、どんな役作りを意識されたのでしょう?佐藤祐市監督とも、矢代の本心に関して共通認識を持たれたようですが…。
「原作の矢代は、親からもらったブランド品のバッグを長い間大切に使っていたので、映画では母親からもらった腕時計をいつもつけているという裏設定を作りました。特に本編では触れたりはしないけれど、そういったことで、強そうに見える彼女の優しさや柔和な感じを出したいというのが私と監督の共通した意見だったんです。そのうえで、(浜辺)美波ちゃん演じる嶌さんと対照的な女性像にしたいという想いもあったので、監督とご相談しながら、バランスをうまくとれるように意識しました」
――矢代は英語、中国語、韓国語が話せる人で、劇中にも中国語で流暢に話すシーンがありました。
「中国語で会話するシーンは、撮影の1週間前に監督から『これを中国語でお願いします』と言われて (笑)。それからは夜の9時ごろに撮影が終わったあと、スタジオに残って中国語講座を1、2時間受ける日々だったんですけど、3ページぐらいあった中国語のセリフをすべてしゃべれるようになったのに、完成した映画ではあまり使われてなかったです(笑)。恥ずかしいので、ちょうどよかったですけど(笑)」
――一番大変だったのは、矢代のいろいろな顔をワンシチュエーションの中で演じ分ける最終ディスカッションのシーンですか?
「そうですね。2、3週間ぐらい会議室のセットにずっと籠もりっきりで、朝6時、7時にスタジオに入って、9時からカメラを回し、夜の9時、10時に終わるという毎日でしたから」
――あのシチュエーションでの撮影だけで?
「そうなんです。怒鳴ったところでその日の撮影が終わったら、翌日は朝イチからそのテンションに持っていって続きを撮るんです。だから毎日、夜終わる時にはみんなヘトヘトになっちゃっていたんですけど、私はすごく楽しかったですね。これまで学園モノにもあまり出たことがなく、同世代の方々が集まる現場もほぼ初めてだったので、皆さんのお芝居の感じや作品との向き合い方なども知れて、本当に充実した時間でした」
――告発された袴田(西垣)に向かって詰め寄ったり、「近づかないで!」と突っぱねたりするシーンの撮影は、実際演じてみていかがでした?
「すごくおもしろかったです。矢代と袴田は飲み会の居酒屋でも会議室でも隣の席で、どちらも明るくて社交的なので、“最初はお互いにちょっと意識しているんじゃないか?”“袴田は矢代のことが好きなんじゃないか?”みたいなことを現場で監督とお話しした覚えがあります。なのに、あそこで突然、好印象だった袴田の衝撃的な過去がわかったから、矢代が最初に袴田とぶつかるんですけど、あの急展開が私はとても楽しかったです(笑)」
――あのシーンの矢代はすごいテンションだったし、『怖い、この人!』って思いました(笑)。
「豹変しますからね(笑)。現場でも監督が『じゃあ、始めようか』と仰ってカメラが回りだしたのと同時にすごい剣幕で怒りだすので、人間ってこんなに一気に沸点が上がるんだって思いましたし、その感覚は映画を撮っているというより、毎日、舞台をやっているみたいでした」
――嶌さんに向かって「怖いわ、この女!」って言ったりする、浜辺さんとバチバチするお芝居のほうはいかがでした?
「あれもおもしろかったです(笑)。嶌さんのほうが精神年齢が少し上に思えて。突っかかってくる矢代を相手にしない感じや、強そうに見える矢代より、嶌さんのほうが実は強者なんじゃないかと思えるたたずまいとか、女性同志特有の程よい距離感がすごく楽しくて。私は、矢代は0か100かの人間なんじゃないかと思っているんです。就活にマイナスな過去が暴かれる彼女は、その時点でもう諦めている、みんなも道連れだ!って考えるようなタイプ。冷静に振る舞う嶌さんや赤楚(衛二)くんが演じた波多野とは反対側の場所にいる人で、やりたい放題やれたのがよかったです(笑)」