是枝監督とキュアロン監督から相思相愛コメントが到着!オスカー前哨戦のLA映画批評家協会賞授賞式レポート
1月に入りロサンゼルスでは毎日のように賞関連のイベントが行われ、映画関係者は忙しい日々を送っている。“前哨戦”と呼ばれる賞は多いけれど、ロサンゼルス映画批評家協会賞はその中でも最もとんがった賞だ。44回の歴史の中でアカデミー賞作品賞と被ったのは3度のみで、スタジオパワーやロビイングよりも映画そのものが持つ力が批評家たちを動かしている。同じく東海岸で異彩を放つニューヨーク映画批評家協会賞との差異もおもしろい。ロサンゼルス映画批評家協会賞の受賞者は昨年の12月8日に発表されており、1月12日に授賞式が行われた。なお、宮崎駿監督が功労賞を受賞したが、代理で北米配給会社の代表が授賞式に出席した。
2都市の映画批評家たちが選んだ賞に共通しているのは、作品賞『ROMA/ローマ』、主演男優賞イーサン・ホーク(『First Reformed(原題)』)、助演女優賞レジーナ・キング(『ビールストリートの恋人たち』2月22日公開)、最優秀アニメーション『スパイダーマン:スパイダーバース』(3月8日公開)、撮影監督賞アルフォンソ・キュアロン(『ROMA/ローマ』)となっている。このあたりは、アカデミー賞ノミネーションでも“当確”と言われている面々だ。
それぞれの土地柄が現れているのが助演男優賞で、ロサンゼルスでは『バーニング 劇場版』(2月1日公開)のスティーブン・ユァンが、ニューヨークでは『Can You Ever Forgive Me?(原題)』のリチャード・E・グラントがそれぞれ選ばれている。韓国系のスティーブン・ユァンはドラマ「ウォーキング・デッド」で人気を博し、リチャード・E・グラントはニューヨークを舞台にした作家の物語で主人公の親友を演じている。また、外国語映画賞には、ニューヨークが『Cold War(原題)』(ドイツ)、ロサンゼルスは『万引き家族』(是枝裕和監督、日本)と『バーニング 劇場版』(イ・チャンドン監督、韓国)を同時受賞に選出。『バーニング 劇場版』は、村上春樹の短編「納屋を焼く」を原作に、NHKが製作し昨年12月にはドラマ版が放送されている。この2作はカンヌ映画祭でもパルムドールを競っており、1年近く賞レースを共にしてきた作品なのだ。是枝監督とイ・チャンドン監督は兼ねてからお互いを「尊敬する監督」と讃えており、この同時受賞はうれしかったに違いない。
多くの賞では『ROMA/ローマ』は外国語映画賞枠で受賞しているが、批評家たちは作品賞に選んでおり、アカデミー賞のノミネーション発表では作品賞と外国語映画賞の同時ノミネートの可能性もある。また、最優秀ドキュメンタリーに、シンガポール出身の女性監督サンディ・タンによる『消えた16mmフィルム』(Netflix)を選んだ。昨年はオールアジアキャスト&スタッフによるハリウッド映画『クレイジー・リッチ!』、インド系アメリカ人の監督が韓国系アメリカ人の家族を主人公に撮った『Search/サーチ』の2作品に代表される、アジアの映画作家の目覚しい躍進が映画界の重要トピックスだった。ロサンゼルス映画批評家賞の受賞結果から、その流れを作ったのはハリウッドのお膝元ロサンゼルスの映画評論家たちだったと想像できる。
1月12日にロサンゼルスのインターコンチネンタルホテルで行われた授賞式では、それぞれの受賞者からコメントをもらうことができた。是枝監督とキュアロン監督のコメントからは、映画作家たちが映画祭や賞レースから、結果だけでない豊かなものを得ていることが感じられた。