木村拓哉が司令塔、二宮和也がフォワード、その真意を『検察側の罪人』の原田眞人監督が語る
「本当の映画監督は殺されても死なない」という持論
基本的に自分が作りたい作品の構想を練り、自ら脚本を手掛けてメガホンをとる、というのが原田流の映画スタイルだ。とはいえ、原田監督が手掛ける映画は硬派な社会派ドラマが主流で、製作に難航するケースも少なくはない。なかには莫大な予算がかかる重厚な時代劇もあり、何度も頓挫しそうになりながら、ようやく形にできたプロジェクトも多い。
「木村さんにしても二宮くんにしても、役がおもしろければ、役者さんはついてきてくれます。僕は作品を作りながら、そういう人間関係も構築してきたつもりです。できればこのあと、30年くらいはそうやって映画を作っていきたいと思う。そうなると、100歳になっちゃうか。マノエル・ド・オリヴェイラみたいに」と、ここで破顔一笑する原田監督。ポルトガル出身のマノエル・ド・オリヴェイラは享年106歳で大往生した監督だが、晩年もコンスタントに映画を撮り続け、105歳で『レステロの老人』(14)を第71回ヴェネチア映画祭に出品していた。
現在69歳の原田監督だが「映画を撮るうえで、難しいシーンを面倒くさいからカットしようかなと考えるようになったらおしまいだなと。敢えて大変なシーンにもトライしていかないといけない」と、まだまだ監督としてのバイタリティは健在だ。
とはいえ、産みの苦しみも伴うのが映画作り。自分が望む映画を作ろうと思い立ってから、幾多の困難を乗り越えていくために必要な鋼のメンタルを、監督はどうやって維持しているのか。原田監督は「僕は基本的に楽天的で、なんとかなるだろうと思っています。いままで何度もヤバい状況を経験してきましたから」と、穏やかな笑みを浮かべる。そして、もう一つ、監督の心の支えとなっているのは、映画監督としての先達の生き様だと教えてくれた。
「一流の映画人たちの体験談や失敗談が英語本でたくさん出ているので、僕はそれを読んでいます。エリア・カザンやウィリアム・ゴールドマンなど、彼らの失敗談ほど勇気づけられるものはないです。一流の人がいかにして失敗を乗り越えてきたか。あの人もこんなんに大変だったのだから、自分も頑張ろうと思えます。翻訳されているものもありますが、英語で読むと、一層ニュアンスがわかっていいんです」。
さらに、原田監督は「本当の映画監督は殺されても死なない」という持論を述べる。「自分が作りたい映画の脚本を書き、監督もする映画監督で、自殺した人は基本的にはいないと思っている。もし、いたとしても、僕はそれは本当の映画監督じゃないってことだと思う。自分が作りたいものがある場合、絶対に自分で自分を殺したりはしない。『死にたい』という発想を持った段階で違うと思う」。
また、原田監督もいつか自伝を書きたいとのこと。実は、『突入せよ!「あさま山荘」事件』(02)の時に、ブログを書いていたことがあるそうだ。「でも、いろいろ書いたらそこで反発をくらったんです。いろいろなものを乗り越えていくために情報集めは必要だけど、リアルタイムで書いちゃいけないなと思いました(苦笑)。だから100歳になる寸前にいろいろなことを書き、後世の方々の参考にしてもらいたい」。
自伝を書く前に、ぜひ新たな野心作の脚本を書いてほしい、とせつに願うところだが、実際、すでに新作の準備中で多忙を極めているという原田監督。まだ作品の詳細は解禁前ということで、今後の発表が待ち遠しい。
最後に、『検察官の罪人』についてこうアピール。「日本人は法廷ものが好きですが、検察官を主役にした名作は1本もなかったと思います。今回、木村さんとニノと一緒になって、20年も30年も残る作品を作ったつもりなので、撮影の裏話も含めて楽しんでほしい」。
取材・文/山崎 伸子