トラブルに見舞われた第91回アカデミー賞授賞式…アメリカ映画界が世界に示したもの、そして課題とは?
脚色賞は『ブラック・クランズマン』(18)のスパイク・リーらが受賞し、6度目のノミネートで悲願のオスカー像を手にした。プレゼンターとして登場したサミュエル・L・ジャクソンは、スパイク・リーとは大学の先輩後輩の関係であり、受賞作が書かれた封筒を開けた瞬間に歓声をあげ、登壇したリー監督は飛び上がってサミュエルに抱きついた。
スピーチでスパイク・リー監督は、来年の大統領選にふれ「歴史の正しい道を歩もう。愛と嫌悪に対し常識的な判断を。“ドゥ・ザ・ライト・シング”(正しいことをする)だよ。うまくまとまったな!」と自身の代表作のタイトルを交えながら述べ、スタンディング・オベーションで祝福された。
だが、授賞式の最後に発表された作品賞で『グリーンブック』(3月1日公開)のタイトルがプレゼンターのジュリア・ロバーツから発表されると、スパイク・リーは怒って会場を出てしまうというハプニングが起きた。その後、受賞者記者会見に戻ったリー監督は、「いつも運転手の映画が賞をさらっていくんだ」と、89年の第62回アカデミー賞で批評家に評判のよかった『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89)が無冠に終わり、白人の老婦人と黒人の運転手の心の交流を描いた『ドライビング・MISS・デイジー』(89)が作品賞を獲った時のことを追想した。
翌朝25日(日本時間26日)のロサンゼルス・タイムズのオスカー特集ページにも、タイムズの映画批評家による怒りに満ちた批評が掲載されている。05年の第78回アカデミー賞で『クラッシュ』(04)が作品賞を受賞した年を振り返り、「長く残忍で現在も続くアメリカの差別の歴史をドラマチックな方程式に落とし込み、バランスをとって解決策を示したような作品だ」と厳しい論調で批判した。
怒りの根底にあるものは、スパイク・リーとも同じものだろう。これは、作品賞にノミネートされていたNetflixの作品や黒人色の強い作品に賞を奪われたくないアカデミー会員が、消去法で投票した結果なのではないか、という批評だ。投票方法は、ノミネート作に順位をつけ、最下位の作品を外していき、最終的に5割以上の票を獲得するまで数え続けられる。10年より導入されたこの投票方法によって、多数決ではなく、最下位として投票した人が少ない作品が選ばれる傾向になっている。
受賞結果は『ボヘミアン・ラプソディ』(18)が4冠、『ブラックパンサー』、『グリーンブック』、『ROMA/ローマ』がともに3冠、そして作品賞にノミネートされた8作は、全作品がなにかしらの賞を受賞している。最多ノミネートだった『ROMA/ローマ』はアルフォンソ・キュアロン個人に賞が与えられる撮影賞、監督賞、外国語映画賞を受賞した。
実は『グリーンブック』と『ROMA/ローマ』は同じ会社が出資しており、合計6部門で受賞したことになる。キュアロン監督もファレリー監督も、NYに本社を構える映画出資会社のパーティシパント・メディア社に賛辞を贈っている。長編ドキュメンタリー賞にノミネートされていた『RBG 最強の85才』(5月10日公開)も同社の出資による作品。昨年作品賞を争った『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)と『スリー・ビルボード』(17)も同じFOXサーチライト・ピクチャーズが製作・配給していたのと同じような図式だ。