星野源、理想的な上司は阿部サダヲ。その理由とは?

インタビュー

星野源、理想的な上司は阿部サダヲ。その理由とは?

『引っ越し大名!』の主演を務めた星野源
『引っ越し大名!』の主演を務めた星野源撮影/岡本英理

音楽家、俳優、文筆家として活躍する星野源の最新主演映画は、「超高速!参勤交代」シリーズで知られる土橋章宏の時代小説を映画化した『引っ越し大名!』(8月30日公開)。星野は本作で“引きこもり侍”だがのちにお国の一大事を救う片桐春之介役を演じ、“不器用だが誠実な男”の時代劇版といえそうなこの役柄が、絶妙にハマった。星野にインタビューし、その舞台裏について話を聞いた。

江戸時代に、参勤交代よりももっと大変だったのが国替え(引っ越し)だった。うだつの上がらない書庫番で、ずっと引きこもって本を読んでいるから“かたつむり”と呼ばれていた春之介が、引っ越しという超難関プロジェクトの総責任者、引っ越し奉行に任命される。『のぼうの城』(11)の犬童一心が監督を務めた本作は、笑いあり涙ありのエンタテインメント時代劇に仕上がった。

「いっちゃん(高橋一生)はストイック。見ていて気持ちがいい」

脚本をとてもおもしろく読んだという星野源
脚本をとてもおもしろく読んだという星野源撮影/岡本英理

時代劇といえば、NHK大河ドラマ「真田丸」での徳川秀忠役も記憶に新しい星野。「前回は身分の高い役柄で、着物にもシワをつけてはいけないようなキャラクターでしたが、今回は服装も気にしないし、所作もしっかりしていない。ある意味社会からドロップアウトしているような人だったので、そういった部分では全く別物でした」。

そういう体面を気にしない春之介役には、非常にシンパシーを覚えたという。「趣味がしっかりあって、自分の好きなこと以外はあまりしたくないという点はすごく僕と似ていましたし、そのスタンスにはとても共感できましたね」。

春之介の幼なじみで武芸の達人、鷹村源右衛門役に高橋一生、前任の引っ越し奉行の娘で、春之介をサポートする於蘭役に高畑充希、“引っ越し大名”と呼ばれていた松平直矩役に及川光博。それぞれのキャラクターが濃く、絶妙なアンサンブルを繰り広げている。

高橋のことは、10年以上前に舞台で共演して以降、“いっちゃん”と呼んでいるそうだ。「いっちゃんは、ストイックですよね。いろんなことができるので見ていて気持ちがいいです。今回演じた鷹村は豪傑な役なので、体をしっかり鍛えてから撮影に臨んだらしいのですが、『やりすぎて逆に体が動かなくなっちゃったから痩せなきゃ』と絞ってました。大変そうだなあと(笑)」。

『引っ越し大名!』は8月30日(金)より全国公開
『引っ越し大名!』は8月30日(金)より全国公開[c]2019 「引っ越し大名!」製作委員会

上司から無理難題を押し付けられて青ざめたり、引っ越し奉行の職務を嫌がる春之介が抱きかかえられて運ばれたりと、コミカルな演技が光っていた星野。「犬童監督は多めにテイクを撮る方なので、朝早くから夜中まで長時間の撮影になることも多かったです。さらに夜寒くて昼暑いという、一番体力が持っていかれる気候のなかで撮影をしていたので、とにかく必死だった印象です」。

ヒロイン於蘭役の高畑にも、鉄板の笑いを取るシーンがある。引っ越し奉行に任命されたばかりの春之介が、良案を生み出せず、責任をとって切腹になるかもしれないというタイミングで、於蘭が馬を駆ってやってくる。屋敷の壇上に現れるも、勢い余って廊下をスーッと滑ってしまうシーンはまさにコントのようだ。「あれは犬童監督が考えたもので、現場に行ったら、いきなり“滑るシート”が置いてあって、充希ちゃんも非常に困惑してました(笑)」。

コミカルな演技について星野は「いかにも、このキャラクターおもしろいでしょ!みたいなお芝居にはしたくなかった」と捉えていた。「脚本自体に喜劇としての要素がしっかり刻まれていたので、プラスしてやるとただの役者のアピールになってしまうと思ったんです。(濱田)岳ちゃんが一番アドリブを加えていたけど、それもあくまでキャラクターの範囲内で行われていましたし。僕は、脚本を読んでとても感動したので、真剣に物語を作り、そこで自然に笑いが生まれていけばいいんじゃないかと思っていました」。

すなわち、犬童監督による喜劇は、笑いを取りにいくベタな演技は求められていなかったようだ。「それらはすべて状況やキャラクターの性格から生まれる笑いなので、笑いを取りに行こうというよりも、真剣にやったほうがおもしろいんだと思います」。

「僕にとっての理想的なリーダーは阿部サダヲさんです」

現場は気候的に大変だったという
現場は気候的に大変だったという撮影/岡本英理

江戸時代の物語ではあるが、本作で描かれる内容は、現代におけるサラリーマン社会の縮図そのものだ。引きこもり侍だった春之介だが、少しずつ人望を集めていき、引っ越しという超難関プロジェクトをがむしゃらに遂行していく。決して人に無理強いをするのではなく、誠意を持って人に接する春之介は、現代的な見地から見ても申し分のないリーダーだ。そこで、星野が考える、俳優業界での理想的なリーダーについて尋ねると、同じ大人計画の俳優、阿部サダヲの名を挙げた。

星野も出演するNHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」で主演を務める阿部を見て「本当にすばらしいリーダーです」と賛辞を送る。

「大河ドラマの現場は撮影の量も多いしすごく過酷で。阿部さんは後半の主演ですが、皆さんを鼓舞したり、リーダーシップを取ったりすることはなくて、1人でお茶を飲んでいたりします。みんなと話すときもボソボソと話すくらいです。松重豊さんなど、共演者からツッコまれたりもしますが、皆さん、阿部さんのことが大好きなんです。実際、阿部さんは芝居の力で引っ張っていってくださり、皆がどんどん触発されていき、スタッフのみなさんも笑顔になっていきます。急な無茶振りに対しても、駄々をこねる姿は一度も見たことがないし、阿部さんのおかげで現場がスムーズに進むんです。そういうリーダーって実はあまりいなくて」。

でも、おそらく星野も阿部と同じようなタイプなのではないだろうか。完成披露試写会では、自分が前に出るというよりは、共演者に率先してネタを振ったり、ずんの飯尾和樹から、高橋と及川光博と3人で“国産ホワイトアスパラ”というあだ名をつけられたりしていじられていた。彼もまた、愛すべき座長であり、同じくカッコイイ俳優だ。そういう意味でも、春之介役は、ベストなキャスティングだったと思う。

取材・文/山崎 伸子

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