“園子温ワールド”を体感せよ!最新作『愛なき森で叫べ』と過去作との共通点とは?
第59回ベルリン国際映画祭でカリガリ賞と国際批評家連盟賞を受賞した『愛のむきだし』(09)や、第68回ヴェネチア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞した『ヒミズ』(11)など、世界中の映画ファンを魅了しつづける園子温監督の最新作となるNetflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』が10月11日から独占配信中。
実際の事件からインスパイアされた本作は、これまでの園監督の作品を彷彿とさせるシチュエーションや、同じ名前の登場人物が登場するなど、まさに“園子温の集大成”とも呼ぶべき1本。これまでの作品を欠かさずチェックしてきたファンも唸ること間違いなしの本作を観る前に、是非ともチェックしておきたい過去の園子温監督作品を一挙に振り返っていきたい。
『自殺サークル』(2002年)
「いっせーのー!」の掛け声とともに54人の女子高生たちが手を繋いだまま新宿駅のホームから飛び降り、集団自殺を図るという衝撃的なシーンから幕を開ける本作。自殺現場に残されていたのは削り取られた人の皮膚の一部が連なったロープ状の物体…。果たしてこれは事件なのか事故なのか。石橋凌演じる黒田ら刑事たちが、その謎に立ち向かっていく。
高校生たちが笑顔のままでどこか誇らしげに、そして楽しげに集団自殺を図る姿は、最新作『愛なき〜』の中で描かれる美津子や妙子ら5人の自殺と重なる。不気味さとブラックユーモアに包まれた“園子温ワールド”全開の本作で、園子温という名が瞬く間に世に広まり、公開当時のメイン上映館だった新宿武蔵野館の観客動員記録を塗り替えるほどの大ヒットを記録した。
『HAZARD』(2002年)
2002年に撮影されながら4年後の2006年に公開された本作は、平凡な日々や日本に不満を持つ大学生シンが、ある一冊の本をきっかけにニューヨークの犯罪都市
また、過去の回想として出てくる大学生活のシーンでは、シンが運命の本に出会う姿や映像に重ねて合唱が流れるなど『愛なき〜』と似た演出が散りばめられている。人とは違う一線を越えたなにかを成し遂げたいという若い男たちが互いに刺激し合い、絆で結ばれて道を外していく青春物語という点もまた、共通している。
『Strange Circus 奇妙なサーカス』(2005年)
第56回ベルリン国際映画祭のフォーラム部門に出品され、カナダのファンタジア国際映画祭で作品賞と主演女優賞の2冠に輝いた本作は、近親相姦や児童虐待といった過激な題材に、ひとりの女の歪んだ愛の行く末を描いた禁断の官能ミステリー。
実の父親に抱かれ、それが忌むべき近親相姦と自覚することはなく心だけが壊れていく美津子と、そんな倒錯したエロスの世界を小説で描く車イスの人気女流作家・妙子。『愛なき森で叫べ』の登場人物と同じ名前を持つ2人の女性が登場するだけでなく、心に傷を負いながら屋上から飛び降りる女性や過去と現実を交差しながら進んでいくストーリーもまた、園監督作品ではおなじみの演出といえよう。
『愛のむきだし』(2008年)
敬虔なクリスチャンの家に生まれ、神父の父と幼い頃に亡くした母の思い出を胸に、理想の女性“マリア”と出会う日を夢見て平穏な日々を送る主人公の本田悠。ある日、優しかった父が豹変し、悠に懺悔を強要するようになる。それをきっかけに悠は、親子としての絆を守るために懺悔をしようと罪作りに励み、いつしか盗撮のカリスマと呼ばれるまでに成長。そんな中、尾沢洋子とめぐり逢い、生まれて初めての恋をすることに。
恋心を抱きながらすれ違う2人に迫る、謎の新興宗教団体の影…。洗脳やマインドコントロールといった、『愛なき森で叫べ』につながる部分が随所に見受けられる本作は、満島ひかりや安藤サクラ、さらには松岡茉優といったその後の日本映画界で輝きを放つ女優たちが飛躍を遂げるきっかけとなった、上映時間239分にも及ぶ超大作。実話をベースに、愛と性、欲望と宗教などが複雑に絡み合った濃密なストーリーは見応え充分。