衝撃シーン連発!映画ライター厳選、夏映画の“すごすぎる名場面”を見よ!【後編】
映画ライターの相田冬二さん、高橋諭治さん、相馬学さん、村山章さんの4名が参加した“夏映画を語り尽くす”座談会。後半戦はライター個々のおススメ作品を紹介し、他の参加者がツッコミを入れるという形に。そのバラエティ豊かな作品群を見れば、夏映画への期待も膨む!?
◇作品No.3:『リヴァイアサン』(8月23日公開)/【機械音と海がぶつかりあう音。普通じゃない!】(相田冬二)
相田:私がおススメするのは『リヴァイアサン』です。漁業のドキュメンタリーなのですが、よくあるネイチャー系のキレイなものではない。正直、わけがわからないんですよ。みなさんご覧になりました?
相馬、村山:未見です…。
高橋:私は見ました!まず音がすごい。
相田:漁船である機械と大自然である海がぶつかり合い、そこで発生するギギギギというノイズ…あれは強烈!
――実は監督に取材する機会があったので撮影方法を聞いてみたら、カメラを海に落としてしまい急きょ小さなカメラで撮ったそうです…!(編集部)
高橋:そ、それはスゴイ。漁船のどこかにカメラを落としてしまって、放置したまま撮影が続いているようなショットがいくつもありますよね。地獄の光景を見せられている気分。
相田:波の中から空を見上げていたり、カモメの大群がいたり…。普通はそこにメッセージがあるけれど、この映画には何もない。でも映像表現としては新しい。
高橋:通常の意味での“演出のプラン”がまったくないんですよね。これこそアートかも。途中退出したくなる人もいるかもしれません。でも日々、多くの映画を観させてもらっていますが、未知の異物に出くわしましたよ!!
相馬、村山:おぉ!お二人がそこまで言うなら、絶対見ます!
◇作品No.4:『プロミスト・ランド』(8月22日公開)/【人間ではない眼差し“神の視線”がある】(高橋諭治)
高橋:シェール・ガスの問題を描いた『プロミスト・ランド』が良かったです。ウェルメイドな作品で、現実に向き合うこと、考えてみることを広く提示してくれる。今、見るべき映画です。
村山:脚本も良いですよね。悪者をやっつけて改心させて…という安易なカタルシスに逃げていない。
高橋:この映画の何が素晴らしいかって、人間ではない眼差しが入っているところ。マット(・デイモン)の決断、行く末を、ピュアな眼差しが見つめている。
――つまり、カメラの目線ということですか?(編集部)
高橋:いえ、そうではありません。議論が起き、2つの勢力のぶつかり合いを描いているように見えて、遠いどこかからジッとそれを見つめている目が存在するんです。ガス(・ヴァン・サント)が意図的にやっているのですが…。
相田:良いか悪いかを断定せず、真ん中でいることを勇気をもってやっている。そして、観客にどう思いますか?と問うている。それはとても正しいことなんじゃないかと思います。
村山:完成度の高さに比べて、あまり評判になっていないのが残念。でも私は、当初監督するつもりだったマットがガスの協力を得て、この企画を実現させたことは素晴らしいと思う。
高橋:マットって、ハリウッドスターなのにとても素朴。今回はその特性がよく表れていますよ。
村山:日本人ってこのマットの淡白な顔、好きですよね。顔と言えば…役者名がすぐに出てこないのですが、あのガンショップの主人、いい顔してません?
相馬:いい!役者の使い方、ガスはさすが心得ていますね。
◇作品No.5:『イーダ』(8月2日公開)/【ラストでヒロインのスクリーンの中央に位置するんです。そのインパクトがすごい】(相馬学)
相馬:私の最近の一番は『イーダ』ですね。とっても美しい映画。
高橋:うん、傑作。
相田、村山:すみません、未見です!
相馬:ポーランドを舞台に、修道院で育った少女イーダが、ある日突然ユダヤ人だと知らされる。そこから自分の出生の秘密を探っていくんです。
高橋:自分は誰なのか?というイーダの気持ちが、不穏なモノクロ映像と呼応して…。
相馬:前半のイーダは敬虔なクリスチャン。その時はスクリーンの下半分にしか彼女の顔は映らない。でも、ラストでは顔が中央に位置する。彼女の変化を象徴するようで、絵的にインパクトがありました。
高橋:成長とは違う、一種の生まれ変わりですよね。
相馬:そう。映像もまったく無駄がないんです。ポーランドの歴史を知っていなくても、それを補う映像の力があります。
高橋:不気味で美しいですよ。ゾンビは出てこないけれど、画面のはじっこに幽霊がでてきそうで…。
相田、村山:えっ、そういう映画なんですか!?
高橋:出てきません…でも、それくらい、ザワザワ感のある映画ということです(笑)。
◇作品No.6:『めぐり逢わせのお弁当』(8月9日公開)/【インド映画は歌って踊ってキスシーンはナシ、みたいな旧来の固定観念は早く取っ払ってほしい。これは歌も踊りも一切ない!】(村山章)
村山:私のおススメは歌と踊りが一切ないインド映画『めぐり逢わせのお弁当』です。
相馬:自分もとても良かったです。
村山:インドのムンバイには、働く夫のために家で作ったお弁当を届けてくれるサービスがあるんです。その誤配送から見知らぬ男女の交流が始まるわけです。女性にとっては、夫にわかってもらえない専業主婦の感情が描かれていて、男性にとっては、ほろ苦い人生の中で希望を見出しても良いと思える映画です。
相馬:心を閉ざしていた人間が料理を食べることによって心を動かされていく、というところもイイ。その一方で、あの終わり方のギャップと言ったら…。
村山:センスありますね。うまい!
相田、高橋:インド映画、全然チェックできてないなぁ…。
編集部:ちなみに、このほかにも夏公開のインド映画ありましたよね?
村山:はい、『バルフィ!人生に唄えば』(8月22日公開)も良かったですよ!それも含めて言うと、ようやく昨今のインド映画のクオリティーの高さが日本に理解されてきた気がしますね。インド映画は歌って踊ってキスシーンはナシ、みたいな旧来の固定観念は早く取っ払ってほしい。現代性という点では、インドの女性が主人公でも、旦那を愛していない、愛せないみたいなテーマもちゃんと描いているんです。
相田、高橋:な、なるほど。これもちゃんと見ておきます!
最初から最後まで、映画への愛情をもって熱く語ってくれた4人。この6本は、他の映画にはない衝撃が味わえること間違いなし!“すごすぎる名場面”をもとに、夏映画選びに迷った際には、参考にしてみて!【取材・文/トライワークス】