是枝裕和、行定勲が“映画の未来と配信”をスターサンズ・東宝・Netflixの映画人らと語り尽くした1万字レポート
第33回東京国際映画祭の新たな取り組みとしてスタートしたトークシリーズ「アジア交流ラウンジ」。国際交流基金アジアセンターとの共催のもと、アジア各国・地域を代表する映画監督と、日本の第一線で活躍する映画人とが様々なテーマでオンライントークを展開する。
11月4日に行われた第4回では「特別セッション『映画の未来と配信』」と題し、近年の映画界を大いににぎわしている配信と既存の映画ビジネスとの共存・共栄の道を探っていく。
参加したのは本企画の発案者でもある是枝裕和監督を筆頭に、今年『劇場』を劇場公開と同日にAmazon プライム・ビデオで配信したことが話題を呼んだ行定勲監督、最新作『カム・アンド・ゴー』が第33回東京国際映画祭の「TOKYOプレミア2020」で上映されているマレーシア出身のリム・カーワイ監督。第43回日本アカデミー賞最優秀作品賞などに輝いた『新聞記者』(19)を制作・配給した株式会社スターサンズ代表取締役の河村光庸、東宝株式会社常務取締役の松岡宏泰、そしてNetflixコンテンツ・アクイジション部門ディレクターの坂本和隆の6名だ。
映画監督と配給会社、配信会社のそれぞれ異なる視座を持った彼らが集まり、映画の未来について語られていった。その模様を、1万字に迫るロングレポートで、余すところなくお届けしたい。
日本を代表する2人の監督から見た“配信”の現在「日本映画を広める有効な場所」
是枝「私はまだちゃんとしたかたちで配信用作品というものを作ったことがないのですが、企画の依頼はたくさん来るようになりました。劇場公開用の作品でも企画がなかなか通らない、予算が集まらない状況のなかで、配信のほうが潤沢な予算があるとか、権利が作り手に残るとか、いろいろなメリットある。なので劇場公開という価値観さえ脇に置けば、配信のほうが多様な企画が実現できるチャンスがあって作り手も潤う。ただ僕は映画館で映画を観て育ってきた世代ですから、自分のなかの価値観をどう塗り替えながら、誰とどこで組んで作り続けていくかを考えざるを得ない状況になっています」
行定「配信について旗を振っているわけではないですけど、最近は配信の話になると僕が呼ばれている状況がありますね(笑)。『劇場』の公開間近に緊急事態宣言が出て、僕は当初は映画館が開いていれば公開すべきだという立場だったのですが、映画館も閉鎖されるという前代未聞の状態で、宣伝費も使い果たしてしまい、公開を延期するのはかなり厳しい状態になった。そこで『配信を考えてくれ』と言われて、初めて向き合うことになったわけです。
とはいえ、僕らの完成形はスクリーンで観客に届けることだったので、なかなかOKは出せずにいました。結果としてAmazonプライム・ビデオさんがミニシアターなら上映できると、僕らの想いを叶えていただけたので、いろいろ物議はありましたが同時配信という形になりました。当たり前のようにスクリーンで観てもらえると思っていた自分が嘘のようで、ユーロスペースで7月17日に公開された時には、泣けてくるほどの喜びがあった。僕にとって忘れがたい日になりました。
SNSでの感想やレビューの数も、いままでの僕の映画とは比にならないくらいあって、その感想が辛辣なものも多くて、自分のお客さんに向けて届けばいいというものではないなにかが、配信では得られると知りました。それに何人が観たかという具体的な数字を教えてはもらえなかったのですが、70万人ぐらいですかと訊ねたら、二桁は違うと。それはやはり242か国に向けた世界配信だったから。それを聞いてハッとさせられましたね。今後の僕らにとって、日本映画を広めるという意味では有効な場所なのではないかと感じました。海外の知り合いからは、Netflixでも日本の映画監督の作品は全然あがっていないと言われるんです。これからそういう広がり方もできるのだろうという気持ちになりましたね」