「キミスイ」『ジョゼと虎と魚たち』…光と空気を操るイラストレーター・loundrawに注目
透明感、空気感のある色彩で“ジョゼと恒夫”の物語を創出
loundrawの絵の特徴を言葉で説明するなら透明感、空気感のある色彩が魅力。将来や人間関係、恋などに揺れる登場人物たちの心情が描かれる青春ストーリーとの相性が抜群に良く、『ジョゼと虎と魚たち』でもその感性が遺憾なく発揮されていることは、彼が制作したコンセプトデザインを見れば一目瞭然だ。
本作の物語は、海洋生物学を専攻する大学生4年生の恒夫(声:中川大志)、脚が不自由で家に引きこもって生活してきたジョゼ(声:清原果耶)の交流を中心に、ふたりを取り巻く家族や友人たちとの関係性も映しだされる。コンセプトデザインからも、恒夫とジョゼの心の距離がしだいに近づき、様々な困難に向き合い、乗り越えようとする姿が伝わってくる。
ジョゼに出会った恒夫は、彼女を外の世界に連れだし、多くのことを経験させる。街中でクレープを食べ、水族館で生きた魚を見て興奮し、紅葉がきれいな並木道を散歩することも。これらのコンセプトデザインは、引いた構図だったり、後ろ姿で表情が見えなかったりする絵ばかりだが、それでも、生き生きとした明るいタッチや温かみのある色づかいから、ジョゼや恒夫の楽しそうな様子を感じ取ることができる。一方で、冬の海を眺める絵からは、全体に冷たく重い雰囲気が漂い、2人の苦悩や不安を想像して、胸が絞めつけられる。
このほか、ダイビングをする恒夫が見る海の中、ジョゼが空想する想像の海の世界を描いたものはダイナミックで、魚やサンゴ、差し込む太陽の光までが美しい。また、暗い部屋で恒夫と一緒にライトの光を見つめていたり、机に向かって必死になにかに取り組む姿を描いたジョゼの表情からは、少しずつ前向きになっていく彼女の成長を想像させられる。
loundrawのコンセプトデザインがもとになった劇中の名シーンたち
このコンセプトデザインをもとにアニメーションが制作されていることもあり、劇中には似たシーンも数多く登場する。この記事内で確認できるloundrawのコンセプトデザインと劇中のシーンを見比べてみて、それぞれの表現の違いなどを発見するのもおもしろいはず。
大学卒業後に上京したloundrawは、そのころから本作の制作に携わってきたという。『ジョゼと虎と魚たち』を観て映像や世界観に感動したという人は、そのベースになったコンセプトデザインを描いた彼のこれまでの作品や、今後手がけていく作品にも注目してみてほしい。
文/平尾嘉浩