磯村勇斗が語る“家族映画”。『ヤクザと家族』から『フェアウェル』、18歳の上京時に沁みた映画まで

インタビュー

磯村勇斗が語る“家族映画”。『ヤクザと家族』から『フェアウェル』、18歳の上京時に沁みた映画まで

『あゝ、荒野』(17)、『宮本から君へ』(19)、『MOTHER マザー』(20)など、いま日本で最もアブないテーマに果敢に取り込む制作会社スターサンズ。大きな話題を呼んでいる『ヤクザと家族 The Family』(公開中)は、『新聞記者』で一躍注目された藤井道人監督と再びタッグを組み、「反社」という言葉と共に現代社会からその存在を否定される男たちの人生の選択、その人権を問うた意欲作だ。

1999年、2005年、2019年という3つの時代が切り出されるなか、2019年パートの主役ともいうべき存在が、半グレ集団を動かす木村翼役を演じる磯村勇斗である。バブル崩壊後の拝金主義の中で起こる抗争に身を置く綾野剛と昔気質のヤクザの生きざまを表す舘ひろし、2人のアニキの背中を見て成長した翼をどう演じたのか?短期集中連載「ちょっと話そうか」で“ヤクザ映画”と憧れの俳優像を語ったインタビューに続き、今回のテーマは「家族映画」について。
ヤクザと家族 The Family』感想投稿キャンペーンにも、「血の繋がりだけが家族ではない、家族の在り方に気付かされました」「磯村くんが演じた翼が出てきたあたりからヤクザの世界の変化や家族とはなんなのか考えさせられることが多かった」など、本作を貫く“家族”というテーマについて多くのコメントが寄せられている。

【写真を見る】写真家・野村佐紀子が撮り下ろした磯村勇斗、ふっと気を緩めた表情も色っぽい
【写真を見る】写真家・野村佐紀子が撮り下ろした磯村勇斗、ふっと気を緩めた表情も色っぽい撮影/野村佐紀子

「賢兄の雰囲気から、憧れのまだ見ぬ父親像をなんとなく構築し、熟成させていった」

――第2回目では、『ヤクザと家族 The Family』の「家族」の部分をお聞きします。磯村さんが演じた木村翼は顔を見たこともない父親の不在を求めている役柄ですね。

若いころの“賢兄”を思わせる、気迫に満ちた目線も印象的だ
若いころの“賢兄”を思わせる、気迫に満ちた目線も印象的だ[c] 2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会

「翼の父親は、舘ひろしさん演じる柴咲組組長の下で、若頭だったという設定です。翼が物心がつくころにはもういなくて、翼にとって大きな存在ではあるけど、どんな人物なのかは正直、わからない。寺島しのぶさん演じる母親の営む食堂に亡き父親の写真が飾ってあって、それを見てこういう人だろうなとイメージしながら撮影に挑んでいましたけど。

寺島しのぶが演じるのは、翼の母親・木村愛子役。一人で気丈に食堂を切り盛りする
寺島しのぶが演じるのは、翼の母親・木村愛子役。一人で気丈に食堂を切り盛りする[c] 2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会

どちらかというと、寺島さんが食堂で働いている姿や、綾野剛さん演じる賢兄の雰囲気から、憧れのまだ見ぬ父親像をなんとなく構築し、熟成させていったという感じでした。翼が父親について語る場所は脚本には用意されていなかったんですけど、父親はどういう人だったのかという翼の心の引っ掛かりはしっかり作ってもっていました」

――翼にとって舘ひろし演じる柴咲組組長、そして若頭補佐の賢兄は亡き父の面影を重ねる魂の父親像のようなものですね。

柴咲組組長と父子の契りを結び、その背中を見てヤクザとして生きた山本賢治
柴咲組組長と父子の契りを結び、その背中を見てヤクザとして生きた山本賢治[c] 2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会

「舘ひろしさん演じる組長がバリバリの時、翼はまだ小さいので、僕じゃなく子役の男の子が演じていて、大人になってからの翼との共演シーンがないんです。今回、芝居でご一緒できなかったのは残念なんですけど、撮影に入る前にご挨拶だけはできて。怖いイメージが若干あったのですが、よろしくって握手してくださって、優しさがあふれていて、笑顔が素敵な方だなと思いました」

22歳になった翼は、旧世代の“ヤクザ”を一蹴し、新世代の青年らしい感性で夜の街を仕切っていく
22歳になった翼は、旧世代の“ヤクザ”を一蹴し、新世代の青年らしい感性で夜の街を仕切っていく[c] 2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会

「『フェアウェル』は家族が愛情を持っているからこその“いい嘘”を描いた作品だった」

――磯村さんにとって、最近観ておもしろかった、感じ入った家族映画はありますか?
「去年公開されたものでは石井裕也監督の『生きちゃった』。あれは主演の(仲野)太賀くんと、若葉(竜也)くんの演技がとてもよかったですね。ラストの2人はまさに圧巻で。

それと、ルル・ワン監督の『フェアウェル』。やけに芝居がナチュラルで、その場になじんでいるというか、言動に説得力がある女優さんがいるなと思って観ていたら、後で、リアリティを出すために、ワン監督の身内のおばさんがそのまま叔母さん役で出ていたと知って、そのユーモアあふれる演出法に“おお、やられた!”と思いました。

『フェアウェル』で主演を務めたオークワフィナ(写真左)と、ルル・ワン監督(同右)
『フェアウェル』で主演を務めたオークワフィナ(写真左)と、ルル・ワン監督(同右)

あの作品は監督の実体験を基にしていて、人を幸せにする嘘というものを題材にしている。なんて言うんだろう、人って多分、いくらでも嘘をつけちゃうし、ついてきたとも思うんですけど、その嘘は人を幸せにすることもできるし、怪我させ、傷つけてしまうこともある。両方の刃を持っていると強く感じたので、あの『フェアウェル』は結果的には、いい嘘になったと思う。そう考えると、僕も誰かに、これは知らなくてもいいと嘘をつかれていることでうまく回っているところがあるかもしれない。それって、すごく勇気のいる、誰かを傷つけないための嘘だと思うんです。家族が愛情を持っているからこその“いい嘘”を描いた作品だったからこそ、ヘタな嘘をついてはいけないと思ったなあ」


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