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文学、お笑い、映画が描く女性の連帯。『あのこは貴族』山内マリコとAマッソ加納愛子が語る、シスターフッドの“いま”

インタビュー

文学、お笑い、映画が描く女性の連帯。『あのこは貴族』山内マリコとAマッソ加納愛子が語る、シスターフッドの“いま”

「コント『進路指導』は日々感じていることとフィクションの境目を意識して作ったネタ」(加納)

小学生からの幼馴染みでもあるAマッソの2人
小学生からの幼馴染みでもあるAマッソの2人

――Aマッソの「進路相談」というコントですが、進路指導の先生が生徒の夢を女性だという理由だけで否定をするという内容は、女性差別を笑いに変えているようにも見えてとてもおもしろいです。それを女性同士のコンビでやるというのが、一種のシスターフッドだと思いました。

加納「実はあのネタ、単独ライブで一個くらいふざけたものもやってみようと作ったネタで…。あれをテレビでやってくださいとオファーがあった時は、『あれをテレビで!?そんなん背負われへんけど…』と思いました(笑)」

山内「シリアスに女性差別を考えて作ったコントではなかったということですか?」

加納「はい(笑)」

山内「私はあのネタを観て、『この人、ガチフェミじゃん!』と思いましたよ(笑)。ふざけようと思ってあのコントを書けるとはすごすぎる(笑)。フェミニズム的な理論が下敷きにあったうえで、あえて挑戦的に書いているものだとばかり思っていました」

加納「私はコントのなかにあまり本音を入れることはないのですが、思っていることそのままのテイストで一個ネタを作ってみようと思ったんです。普段作るネタはフィクションが多いので、『進路指導』は日々感じていることとフィクションの、どちらかわからないくらいの境目を意識して作りました」

Aマッソのコント「進路相談」
Aマッソのコント「進路相談」画像はYouTubeAマッソ公式チャンネルのスクリーンショット

――加納さんはご自身のエッセイのなかで、「コントで迷うことがある。医者を演じることはつまり、女医を演じることになってしまう。そんな当たり前を、うまく咀嚼できない」と書かれていましたよね。

加納「普通に白衣を着て医者のコントをした時に、『あれは男役と女役どっちやったん?』と聞かれたことがあって、『どっちとかないんですけどね』と返しました。でも、『観にくいからどっちかにしたほうが良いよ』と言われて…。そういった表現一つとっても、観ている人に迷いを生じさせてしまうのかと思ったことがあります」

――加納さんが男性芸人だったら、同じように役の性別について問われたかは疑問ですね。

山内「それで思いだしたのが、田嶋陽子さんがNHKの番組『課外授業 ようこそ先輩』でされていた子ども向けのフェミニズムのお話。子どもたちに“お医者さん”と言うと、みんな瞬間的に男の人で思い浮かべるんですね。職業的な先入観で。でも田嶋先生は、お医者さんを男性とも女性とも一言も言ってなくて、そこを入口にして、私たちがどれだけ性別でお互いを縛っているか説いていくんです」

「 “お笑い業界は男社会” ということでもないと思っています」(加納)

――世間的なイメージでは「お笑い業界は男社会」と言われていますが、加納さんご自身はどう感じていますか?

加納「自分たちの世代は、それほど“男社会”ということでもないと感じています。私は自分が作るネタのことを一番に考えているので、業界のことに関してはあまり考えたことがなかったかもしれません」

山内「外から見ていると、ホモソーシャルな人間関係の中で自分の居場所を作っていくわけだから、女性芸人であること自体が、戦いなのかと思っていたので意外です」

――以前に比べて、お笑い業界も変化しているということなのでしょうか。

加納「そこは『女芸人No.1決定戦 THE W』など、女芸人だけの大会ができたのも大きいかもしれないですね。あとは、“男社会の中にいる女芸人”が“外”との戦いを見せることが商品化できると、作り手も気づき始めたのか、そういうキャスティングが最近増えたように感じます。私は、まずは自分たちの笑いをコンビで成立させることが第一なので、“外”との戦いよりも“内”の戦いに勝たないといけないと思っています」

“男社会の中にいる女芸人”の“外”との戦い自体が商品にもなってきているという加納
“男社会の中にいる女芸人”の“外”との戦い自体が商品にもなってきているという加納撮影/河内彩

山内「『THE W』を観ていると、個人的におもしろいと思った女性芸人の方は、なんらかの形でフェミニズム的なアプローチをしている気がしました。従来のジェンダー観のままの人と、そうでない人に分かれていて、こっちも古い女性観でこられると笑えないというか。Aマッソは特出して鋭いことをやっているけど、それ以上に、存在自体ウルっとくるものがあります。かつてクラスメイトだった友人同士の女性2人がお笑いをやっているというだけで、そこにシスターフッドを感じて、こっちは勝手にグッときてます」

加納「ありがとうございます(笑)」

「性別関係なくそれぞれが能力を発揮できるようなバランスを作っていくことが重要」(山内)

日本のシスターフッドはどこに向かうのか
日本のシスターフッドはどこに向かうのか撮影/河内彩

――お2人はシスターフッドを取り巻くいまの状況についてどう思いますか?

山内「女性たちの意識はすごく変わって、どんどんアップデートされています。だからこそ、大きくは変わらない世の中に苦しんでいる。最近、政治家の女性差別発言がありましたが、これを契機に、人数的なバランスを、意図的に作ってほしいと思います。数ってパワーだから、女性の席がここまで少ないと、それはいないも同然。女性を締めださず、仲間に入れて話を聞く姿勢ですよね。コンサルタントに女性の劇作家を入れた『マッドマックス 怒りのデスロード』を見習って!」

加納「自分の範囲内のことで言うと、男芸人にはおもしろいと思われたくて力を発揮するけど、女芸人の私たちにはウケようと思ってくれていない人がいるなと感じることがあるんです。こっちに向けてアンテナ張ってないなって…。お互いおもしろいと思われたいし、そういう関係性を築いていきたいですね。そこに男とか女とかはなくて、おもしろい人がいたら一緒にやっていこうよ、という環境にもっとなればいいなと思っています」

「次の作品では女性同士の友情をテーマにした連作短編小説を書こうと思っています」(山内)

――最後になりますが、『あのこは貴族』を経て、山内さんは今後どのような小説を書く予定ですか?

山内「次は、真正面から女同士の友情をテーマにしています。小説家として駆けだしだった2007年ごろ、編集者の方に『女同士の友情をテーマにしたい』と言ったら、鼻で笑われてしまって、実現しなかったんです。当時は『女性作家には恋愛ものを書いてもらいたい。そのほうが売れるから』という世の中で、恋愛は高尚、女の友情は一段下とみなされ、そういうのは少女小説で扱うテーマという感覚でした。そんなこともあって、デビュー作ではちょっと逃げてしまったんです。ようやく書ける土壌ができてきたので、今度はしっかり、女同士の友情をテーマに、自分が納得できるものを書こうと思っています」

女性同士の友情を連作短編小説で書きたいと語った山内
女性同士の友情を連作短編小説で書きたいと語った山内撮影/河内彩

加納「山内さんはそういうテーマを描くことを、背負っている感覚なんですか?」

山内「ただただ、それがツボなんだと思います。自分が感動できるのが、そういう物語だから。それを背負ってるとはまったく思っていなくて、新しいものを作りたいだけなんです」

加納「そうなんですね。文学だけがどんどん先にいってる感じがします。芸人ももっと頑張らないと。全然追いついてない」

山内「いやいや、加納さんのエッセイもすごくキレキレでしたよ!おもしろかったし、なによりかっこいい。あの文章には作家もみんな、すげえ!とビビってます(笑)」

――別々の思想を持ちながら第一線でご活躍されるお2人が、こうしてシスターフッドを共通項に領域を超えてひとときお話される姿には、どこか『あのこは貴族』で描かれていたようなシスターフッド像とも重なりあうものを感じました。お2人とも、ありがとうございました。

取材・文/児玉美月


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