文学、お笑い、映画が描く女性の連帯。『あのこは貴族』山内マリコとAマッソ加納愛子が語る、シスターフッドの“いま” - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
文学、お笑い、映画が描く女性の連帯。『あのこは貴族』山内マリコとAマッソ加納愛子が語る、シスターフッドの“いま”

インタビュー

文学、お笑い、映画が描く女性の連帯。『あのこは貴族』山内マリコとAマッソ加納愛子が語る、シスターフッドの“いま”

「『アナ雪』は、“姉妹愛”こそが本当の愛だったんだというストーリーが斬新でしたよね」(山内)

――山内さんは“シスターフッド映画”について、どうお考えですか?

山内「ざっくり言うと、女同士の絆を描いた作品になるかと思うのですが、人それぞれ、これもシスターフッド!と感じる幅がありますよね。シスターフッド的な作品は90年代にもぽつぽつあったけど、ジャンルとして括れるほどの数はなかった。それが、2010年代に入ってどんどん、ビッグバジェットのシスターフッド映画が作られるようになりました。2011年に『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』がヒットして、同じ年に韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』もあって、2013年に『アナと雪の女王』、2015年に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』と、いい流れができた」

加納「『マッドマックス 怒りのデス・ロード』、私も観ました!」

山内「シャーリーズ・セロンはあれで神になりましたよね!」

――なかでも『アナと雪の女王』は画期的でしたね。

山内「それまでのディズニー映画は、お姫様が真実の愛を探すのが主題だったけど、真実の愛がなんなのかというと、王子様と結ばれることと決まっていました。それを、2009年に『プリンセスと魔法のキス』、2010年に『塔の上のラプンツェル』とちょっとずつ修正をかけていって、地ならしをしていたんですね。王子様との異性愛だけでなく、“姉妹愛”だって真実の、本当の愛なんだというメッセージは、女の子を限定的なロマンティック・ラブ・イデオロギーから解放してくれました。同じ文脈で私が推したいのは、『愛しのアクアマリン』という2006年の作品です」

“姉妹愛”をテーマに描かれた『アナと雪の女王』もシスターフッド映画
“姉妹愛”をテーマに描かれた『アナと雪の女王』もシスターフッド映画『アナと雪の女王』[c] 2021 Disney ディズニープラスで配信中

――どんな映画でしょうか?

山内「アメリカのティーン向け小説の映画化ですが、テーマ的には『アナと雪の女王』を先取りしているんです。親友同士の女子2人組が人魚姫と出会って、真実の愛を探す人魚姫を手助けするお話。真実の愛=人間の男との愛だとみんな思い込んで探していたけれど、実はこの3人の友情こそが真実の愛だった!というのが最後にわかる。当時かなり画期的だと思いました」

それまでのディズニー映画とは一線を画した作品となった
それまでのディズニー映画とは一線を画した作品となった『アナと雪の女王』[c] 2021 Disney ディズニープラスで配信中

加納「シスターフッドにも、いくつか種類のようなものがあるのでしょうか。シスターフッド映画が増えることによって、方向性も分かれていたりするんですか?」

山内「『チャーリーズ・エンジェル』や『オーシャンズ8』、『天使にラブソングを』みたいに、女性がチームになってわちゃわちゃしてるだけで尊い、というのもあるし、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『お嬢さん』のように、自分たちを苦しめている巨悪の男を倒す系、婦人参政権運動を描いた『未来を花束にして』のような社会派、『プリティ・リーグ』や『ドリーム』などは、あまり知られてこなかった女性の活躍を教えてくれます。個人的には、『ワンダーウーマン』でガル・ガドットが重めの蹴りを入れるだけで泣ける(笑)」

――確かにシスターフッド映画には、男性中心社会であることを意識しつつ“抑圧してくる男性を倒す、男性に抗う”という趣向のものと、男性をひとまず脇に置いて“女性だけでなにかを成し遂げる”という趣向のものがある気がします。

山内「2017年に“#MeToo運動”が起こり、有名な映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが業界から追放されて、映画界が刷新されて、これまでなら企画が通らなかったような映画が一気に作られるようになった印象があります。大物女優が組んで、権力者のセクハラを告発した『スキャンダル』はまさにその流れ。『82年生まれ、キム・ジヨン』もそう。『あのこは貴族』が映画化されたのも、こういう世界的な流れのおかげかもしれません」


「『フルハウス』のD.J.とキミーの腐れ縁感が好きです」(加納)

――加納さんはなにかシスターフッドで思いつく作品はありますか?

加納「映画じゃないんですけど、海外ドラマの『フルハウス』が好きです。なんだかんだ腐れ縁で付き合っているD.J.とキミーが好きなんです」

山内「D.J.とキミーの関係性は、まさにシスターフッドですよね!」

加納「あれだけで飯食えますね(笑)。友愛というか」

【写真を見る】その関係性はまさにシスターフッド!頬を寄せ合う、「フルハウス」のキミーとD.J.
【写真を見る】その関係性はまさにシスターフッド!頬を寄せ合う、「フルハウス」のキミーとD.J.[c]2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

山内「そんな加納さんは、絶対にシスターフッド映画が好きだと思います。ほかの作品もオススメしていいですか?

加納「はい、してください(笑)」

山内「『ひばり・チエミの弥次喜多道中』という、チャキチャキの下町娘2人組が延々と悪ふざけしている映画があって、これが最高なんです!『傷ものにされた~チキショーお嫁に行けないんだったら男になってお伊勢参りしよう!』と、『東海道中膝栗毛』でお馴染みの弥次さん喜多さんの格好になった2人が歌い踊りながら旅をするというハチャメチャなミュージカル映画です」

美空ひばりと江利チエミが主演したミュージカル映画『ひばり・チエミの弥次喜多道中』
美空ひばりと江利チエミが主演したミュージカル映画『ひばり・チエミの弥次喜多道中』

加納「え、ミュージカルなんですか?」

山内「美空ひばりと江利チエミが主演なので!チエミの悪ノリにつられてどんどん弾けるひばり、最高です。本人たちは気づいていないかもしれないけど、スター2人に自由に演技をさせたらずっときゃっきゃしてて、それってもうシスターフッド映画だよ!という。ガールズパワーが結晶化していて、すごく元気が出ます」

「自ら進んで入っていた“女の子”という囲いから、自分を出してあげたら生きやすくなりました」(山内)

――山内さんの書かれてきた諸作品にも、一貫して“女の子”というテーマが出てきますよね。

山内「女の子であることは、すごく楽しいんです。でも、同時にめちゃくちゃ危うい立場でもある。“女の子”という囲いから出なきゃいけない日が来る。そして、今度は自分を“女”の囲いに入れようと、結婚しなきゃと焦ったり。私はアラサーのタイミングですごく自分を見失って、これってなんなんだろうと考えて、フェミニズムに開眼していきました。なので、人を囲いに押し込めようとするのはダメ、というメッセージを送ることには意識的で。囲いから出たら、すごく生きやすくなりました」

加納「いまちょうど私がそのくらいの年齢で潮目かなと思っているので、こうしてお話できてありがたいです」

山内「加納さんにはそういう囲いに捕まらないでほしい、自由でいてほしい!加納さんにもう一本おすすめしたいのが、『雲のように風のように』というアニメ作品。主人公の銀河は、ちょっと加納さんと重なる気がしました。“女の子”の固定概念を吹き飛ばしてくれる爽快な作品です」

“女の子”の固定概念を吹き飛ばす!?『雲のように風のように』
“女の子”の固定概念を吹き飛ばす!?『雲のように風のように』[c]ぴえろ

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