元トーキング・ヘッズ、デヴィッド・バーン×鬼才スパイク・リー!『アメリカン・ユートピア』の多幸感に迫る
社会の“分断”が進む現代にこそ響く“人と人のつながり”というテーマ
なにより見逃せないのは、リー監督らしい社会的なメッセージ。『ストップ・メイキング・センス』と異なり、本作は曲間のバーンのMCもしっかり収められている。冒頭の赤子の脳に関する話に始まり、テレビやカバー曲の逸話がジョークまじりで語られる。それらがすべて、“人と人のつながり”というテーマに向かって収束。多人種編成のバンドを率いたバーンは語る―「移民なしに、このバンドはありえなかった」と。このMCは言うまでもなく、当時のトランプ政権が推し進めていた人種の“分断”を意識している。
『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89)、『マルコムX』(92)などのブラックムービーで人種差別への怒りを表明し、『ブラック・クランズマン』で多人種の共存を説いたリー監督らしいテーマが、ここにも込められているのだ。白人のバーンにカメラを向けるのは意外かもしれないが、同じくニューヨークを拠点に活動する者同士の顔合わせは必然だったのかもしれない。
この映画が撮られたあと、世界はパンデミックという未曽有の恐怖に覆われ、それはいまなお続いている。イライラは人間を偏狭にし、それは新たな“分断”を生む。トランプが退陣しても、脅威はなお続いているのだ。そんななかで観る『アメリカン・ユートピア』は、観る者を“つながり”という名のユートピアへ誘う。幸福な映像体験をぜひ劇場で味わってほしい。
文/相馬学
作品情報へ