「授賞式を1本の映画のように演出する」という企画意図が裏目に?変革に挑んだ第93回アカデミー賞を振り返る
昨年、『パラサイト 半地下の家族』(19)が“竹の天井”を突き破った第92回アカデミー賞授賞式から約2週間後、ロサンゼルスはロックダウンに突入した。映画館はおよそ1年間にわたり営業を停止、数多くの大作映画が公開日を延期し、ストリーミング・サービスに作品を移譲した。映画やドラマの撮影は数か月間休止したのち、厳重な衛生管理体制を取り入れることになった。
第93回アカデミー賞も授賞式日程を2か月遅らせ、受賞基準を大幅に変更、パンデミックが世界を襲い始めた際に注目を集めた『コンテイジョン』(11)のスティーヴン・ソダーバーグ監督が授賞式のプロデューサーを務め、あらゆる変革が行われた。
ここ数年、視聴率低迷に悩まされているアカデミー賞と生中継をしているABCは大きな賭けに出た。授賞式会場は、3000人以上を収容できるハリウッドのドルビー・シアターではなく、ダウンタウンにあるユニオン・ステーションのボールルームを使い、候補者とそのゲスト以外は出席を認めない、小さな内輪イベントに作り変えられた。
放送の翌日に発表されたニールセン社の視聴率調査の第一報では、昨年の視聴者数2360万人から今年は985万人となり、約59%下落している。パンデミックに突入して以来、エミー賞、ゴールデン・グローブ賞、グラミー賞などが軒並み視聴率下落を記録しているので驚くべき数字ではないのかもしれない。だが、この勇気ある変革には、賞賛に値する素晴らしい演出と、再考が期待される欺瞞が共存していた。
多様性が求められる時代を反映した結果に
作品賞、監督賞、主演女優賞を受賞した『ノマドランド』(公開中)が作品別最多受賞、長編ドキュメンタリー賞『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』(20)や『Mank/マンク』(公開中)の撮影賞など、7部門で受賞したNetflixがスタジオ別最多受賞。監督賞のクロエ・ジャオは、『ハート・ロッカー』(08)のキャスリン・ビグローに次ぎ、史上2人目の女性監督、有色人種の女性として初めての受賞監督になった。3度目の主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドは、キャサリーン・ヘップバーンの4度受賞に次ぐ記録で、メリル・ストリープ、ダニエル・ディ・ルイス、ジャック・ニコルソンと並ぶ。
『マ・レイニーのブラック・ボトム』のミア・ニールとジャミカ・ウィルソンは、黒人として初のメイクアップ&ヘアスタイリング賞受賞となった。『ミナリ』のユン・ヨジョンは、ナンシー梅木以来63年ぶり2人目のアジア系助演女優賞受賞者。演技賞の候補者が全員白人俳優だったことから起きた“#OscarSoWhite”運動から6年で、多様性、包摂性は大きく前進している。