オスカー受賞作『アナザーラウンド』で知る、デンマークの驚きの飲酒事情
「血中アルコール濃度が0.05%」の理論はやっぱり正しい?酒によって歴史が変わっていた可能性も
本作で実践される定説はノルウェー人哲学者のフィン・スコルドゥールが主張したもので、その根拠は「人間は生まれつき血中アルコール濃度が0.05%不足している」からだそう。マーティンたちは学校での授業に意義を見いだせず、家族との関係もどこかギクシャクしている。そんな現実を打破するために実験を試みるのだ。
特に歴史の教師であるマーティンは、保護者や生徒からクレームをつけられるほど授業がつまらないと言われていたが、飲酒をきっかけに、生徒たちの歴史への好奇心を呼び起こすような独創的な授業を実施。これが生徒たちからの好評を得たばかりか、すれ違いが多かった妻との関係も改善していく。
実際、「老人と海」などのアーネスト・ヘミングウェイは、毎日夜8時まで飲んでから執筆し、数々の名作を残したことが本編でも語られている。また、第二次世界大戦下でイギリスの首相を務めたウィンストン・チャーチルも寝る前に浴びるほどの酒を飲んでいたとか。クリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』(17)でも描かれた民間船を使った兵士たちの撤退作戦を要請した際も、もしかするとチャーチルは飲酒していたかもしれず、酒がなければいまとは違った歴史があったのかも。
ここまではポジティブな面に言及してきたが、もちろん飲みすぎには注意が必要。劇中でも、「血中アルコール濃度を上げればもっと人生が良くなるのでは?」と考え始めた4人が徐々に酒の量を増やしてしまう。当然、飲みすぎれば自我のコントロールは失われて周囲に迷惑をかけるばかりか、アルコール依存症になってしまう恐れも。そんな酒の危険な部分も本作は教えてくれる。
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