アニメ評論家・藤津亮太が映画『鹿の王』監督・安藤雅司の才能を徹底解説!「地に足のついたアニメーション表現が秀逸」
2015年に本屋大賞を受賞した上橋菜穂子によるファンタジー小説「鹿の王」。人類と謎の病との壮絶な闘いを圧倒的なスケールで描いた物語は、長らく“映像化不可能”と言われてきた。しかしこのたび、日本アニメ界屈指のスタッフが集結し、長編アニメーション映画『鹿の王 ユナと約束の旅』として2月4日(金)に公開される。
そんな本作で注目したいのが、『もののけ姫』(97)、『千と千尋の神隠し』(01)、『君の名は。』(16)など日本を代表するアニメーション作品に携わってきたアニメーター、安藤雅司の監督デビュー作であること。しかも、監督のほかに作画監督、キャラクターデザインも担っている。
“異才のアニメーター”と呼ばれる安藤監督の魅力に迫るべく、「ぼくらがアニメを見る理由――2010年代アニメ時評」や「アニメと戦争」などの著書で知られるアニメ評論家の藤津亮太へインタビューを実施。安藤監督が持つ“クリエイターとしての才能”を解説してもらった。
「安藤監督はキャラクターもデザインできるアニメーター」
安藤監督は1990年のスタジオジブリ入社後、『おもひでぽろぽろ』(91)の動画からアニメーターとして活動を開始した。以降、『紅の豚』(92)や『平成狸合戦ぽんぽこ』(94)などの原画を担当し、宮崎駿監督に才能を認められ25歳という若さで『もののけ姫』のチーフ“作画監督”に抜擢された。
そして、『千と千尋の神隠し』で作画監督を務めたのち、フリーのアニメーターへ転身。『東京ゴッドファーザーズ』(03)、2004年放送のテレビアニメ「妄想代理人」といった今敏監督作にも参加し、後者では作画監督だけでなく“キャラクターデザイン”としても頭角を現した。
『鹿の王』でも作画監督・キャラクターデザインを務める安藤監督だが、そもそもアニメーションにおける作画監督・キャラクターデザインとはどのような役割なのか?藤津は、キャラクターデザインを「キャラクターの絵柄を決める役割。かつそれを通じて作品のリアリティラインやテイストを示す役割」、作画監督を「キャラクターデザイン(仕様書)を基に、(作品を)ベストなものへ仕上げる中心的な役割」と説明する。
「キャラクターデザインは、登場人物の姿や表情などのガイドラインをつくる役職です。そのうえで、どれくらいのリアルさで作品を表現するのかを絵柄を通じて示します。例えば、頭身が低く顔のパーツが大きいキャラはマンガ的で重力を感じられないため、高い場所から落ちてもケガをしないだろうというイメージが連想できます。一方、頭身が高く顔のパーツが小さめのキャラはよりリアルな人間に近く重力がしっかりあると感じられるため、高い場所から落ちるとケガをするだろうと想像できます。絵柄をもってその作品世界の塩梅を決めるのが、キャラクターデザインの役割です」
「そして、そのキャラクターデザインを基に作画していくのですが、原画に落とし込んでみて初めてしっかりと方向性が定まる部分があります。要は、スタート地点にはキャラクターデザインというルールはあるものの、描いていくなかで仕様書だけではわからない表情、特別な表情のアップ時の瞳の描き方、影のつけ方といったキャラクターの方向性が決まっていく。その作業のなかでよりよいキャラクターを完成させていくための責任者となるのが作画監督です」
「自分でデザインをして自分で描ける人は、作画時にもアニメーターとしての能力を最大限に発揮できる」
すべてのアニメーターがキャラクターデザインの役割を担えるわけではない。多くのアニメ作品では、漫画家やイラストレーターにキャラクターデザインのアイデアをもらい、それを基にアニメーターがアニメキャラクターへ落とし込んでいる。それを踏まえ、藤津は安藤監督を「キャラクターもデザインできるアニメーター」と称した。
「自分の考えたキャラクターを最後まで責任を持って管理することは、アニメにおいて一つの理想形と言われています。キャラクターデザインとアニメーターが違う人となると、結局、デザインに似せることを意識するためアニメーターとしての力を活かしきれない部分もでてくるからです。その点、安藤監督のように、自分でデザインをして自分で描ける人は、作画時にもアニメーターとしての能力を最大限に発揮できるんですよ」