アニメ評論家・藤津亮太が映画『鹿の王』監督・安藤雅司の才能を徹底解説!「地に足のついたアニメーション表現が秀逸」

インタビュー

アニメ評論家・藤津亮太が映画『鹿の王』監督・安藤雅司の才能を徹底解説!「地に足のついたアニメーション表現が秀逸」

「重力感のある動きがしっかり描ける、すごい画力の持ち主」

では、安藤監督はクリエイターとしてどのような点が優れているのだろうか。藤津はまず安藤監督のキャラクターデザインについて「リアルに見えるのに記号性の使い方が秀逸」と分析。例えば、『鹿の王』の主人公ヴァンは骨格や顔のパーツが“四角”なのに対し、ヴァンと旅をする幼い少女ユナは骨格や顔のパーツがすべて“丸”の記号性を持つ。キャラクターの違いを際立たせるために、それぞれ異なる記号を使っているが、ひと目で“同じ世界のキャラクター”とわかる統一感もある。

「大きな記号性は異なるもののディティールの密度をそろえることで、統一感が生まれていると思います。それは安藤監督の“画力のなせる技”だと感じます」

顔や骨格のパーツが“四角”のヴァンに対し、ユナのパーツは“丸み”を帯びている
顔や骨格のパーツが“四角”のヴァンに対し、ユナのパーツは“丸み”を帯びている[c]2021「鹿の王」製作委員会

また、藤津は「脇のキャラクターの個性を出す能力も高い」とひと言。メインキャラクター以外を匿名的、普遍的にデザインする人も少なくはない。しかし、安藤監督は脇のキャラクターでも“その人らしい顔”を描いている。『鹿の王』に登場する医師ホッサルの従者、マコウカンはまさに安藤監督の描くサブキャラクターのおもしろさが詰め込まれているそうだ。この脇キャラクターへのデザインのこだわりは、安藤監督が初めてキャラクターデザインを担当した「妄想代理人」から発揮されていた。

「脇のキャラクターの個性が極めて強いのが『妄想代理人』です。その人物への悪意を感じるほど、うさんくさいデザインをしています(笑)。一方『鹿の王』では思惑がありそうだったり権力の中枢にいて一見悪そうだったりするものの、それぞれ信念を持つキャラクターたちなので、悪意を持たずに正面からキャラクターデザインをしている。作品によるキャラクターデザインの振り幅もまた安藤監督の魅力だと思います」

 脇キャラクターとして存在感を発揮する、医師ホッサルの従者、マコウカン(右)
脇キャラクターとして存在感を発揮する、医師ホッサルの従者、マコウカン(右)[c]2021「鹿の王」製作委員会

「世界そのものが本物のように見えてくるので、世界観に没入できる」

そして、安藤監督の作画監督としての魅力について、藤津は「重力感のある動きがしっかり描ける、すごい画力の持ち主」と絶賛。続けて「現時点で人類代表のアニメーターを決めるなら必ず入る」とも。その才能が如実に発揮されているのが、新海誠監督の『君の名は。』だ。

『君の名は。』のキャラクターデザインは田中将賀が担当しているものの、安藤監督が田中の描いたデザインを一度アニメーション用に整理し、さらに作画監督としての責任を担った。「キャラクターデザインを別の人が担当しているからこそ、安藤監督の長所が際立っている」と分析する。

「田中さんが別の作画監督さんと組まれている作品だと、もう少しアニメ寄りと言いますか、体の重さをそこまで意識した動きのキャラクターではありません。『君の名は。』では、キャラクターの動きにしっかり重さを感じる。“地に足のついた”感じが強まっています。そうすると、世界そのものが本物のように見えてくるので、世界観に没入できるんです。『鹿の王』も同様に、安藤監督の特徴である“地に足のついた”表現がしっかりと描かれていました」


田舎町で暮らす女子高校生と東京で暮らす男子高校生が、心と身体が入れ替わる不思議な体験を通して成長していく姿を描く『君の名は。』
田舎町で暮らす女子高校生と東京で暮らす男子高校生が、心と身体が入れ替わる不思議な体験を通して成長していく姿を描く『君の名は。』[c] 2016「君の名は。」製作委員会

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