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「ピース オブ ケイク」「溺れるナイフ」に通じる要素も…ジョージ朝倉の作家性でひも解く「ダンス・ダンス・ダンスール」の魅力

コラム

「ピース オブ ケイク」「溺れるナイフ」に通じる要素も…ジョージ朝倉の作家性でひも解く「ダンス・ダンス・ダンスール」の魅力

魅力的だけど、全面的には共感できない登場人物たち

社会的な生き物である人間は、なかなか自分の思うようには生きられないため、こういう生命力の強いキャラクターに憧れてしまう。とはいえ、実際にこんな人物が身近にいたら、周囲は振り回されて大変なのも事実。その点を決してごまかさないジョージ朝倉は、本作でも、潤平をいわゆる優等生的なヒーローとしては描かない。悪気なく、その瞬間、瞬間の自分の感情のままに行動する潤平のせいで、よくも悪くも影響を受ける人たちの苦悩をしっかりと描いている。漫画の主人公といえば、読者が共感し、好きにならずにはいられないキャラクターとして描かれることが多いなか、ジョージ朝倉作品の主人公の場合、魅力的だが、必ずしも全面的に共感できるわけではない、という部分をあえて残す描写がリアルだ。

努力ではどうにもならない、才能の残酷さもこれでもかと見せつける(「ダンス・ダンス・ダンスール」第3巻)
努力ではどうにもならない、才能の残酷さもこれでもかと見せつける(「ダンス・ダンス・ダンスール」第3巻)著/ジョージ朝倉 発売中 価格:693円(税込み) 小学館刊

人間は多面体であるという視点は、主人公を取り巻くキャラクーたちにも生きている。潤平のことを「小さい野猿」と言い放ち、潤平が恋する都との間に立ちはだかる天才バレエ少年の流鶯も、彼ら3人の恋心を利用して、心理的な揺さぶりを仕掛ける海咲も、普通の漫画なら主人公のライバルとして憎まれ役にあたるはずだが、どうしてもそんなふうには思えない。彼らの言動にはすべて彼らなりの様々な理由があり、彼らを否定するような描き方はしない、というのが作者としてのジョージ朝倉のスタンスなのである。

友人の兵太らに対して、バレエを始めたことを隠そうとする潤平
友人の兵太らに対して、バレエを始めたことを隠そうとする潤平[c]ジョージ朝倉・小学館/ダンス・ダンス・ダンスール製作委員会

複雑なバックグランドと努力では埋められない才能の残酷さ

そして、主人公の運命に大きく影響する少年少女のキャラクターが、壮絶な生い立ちを背負っているということも、ジョージ朝倉作品にしばしば見られる特徴の一つ。「ピース オブ ケイク」の主人公、志乃が恋する京志郎の元カノであるあかりや、「溺れるナイフ」の主人公、夏芽が一目惚れする少年コウは、どちらも複雑な家庭環境で育ち、ミステリアスで独特の色香がある美しい人物として登場する。彼らが受けた心の傷は深いが、あかりの小説を書く才能も、コウのカリスマ性も、その生まれ育った環境と強く結びついているのが印象的だ。

とりわけ「ダンス・ダンス・ダンスール」で描かれるクラシックバレエの才能は、身長や体型など、生まれ持った資質に大いに左右されるため、“血筋”がより重い意味を持つ。ロシア至上主義で、日本のバレエを全否定していた祖母に、苛烈なバレエの英才教育を10年以上受け続けて育った流鶯は、自分にかけられた呪いと引き換えに、圧倒的なバレエの才能を手に入れた。血のつながりという意味では、流鶯のいとこである都も、祖母の娘である千鶴も、同じ血族の業を背負っていると言える。

バレエや才能に対して複雑な想いも抱える都
バレエや才能に対して複雑な想いも抱える都[c]ジョージ朝倉・小学館/ダンス・ダンス・ダンスール製作委員会

幼いころに父を亡くした悲しみこそあれ、家庭環境には恵まれていて、流鶯にも無邪気に「うらやましい」と言ってしまう潤平もまた、血筋の恩恵を受けている人物だ。身体能力、スタイル、勘の良さ、センスといった彼の優れた資質は、明らかに映画のアクション監督として活躍していた父の遺伝によるものだろう。「ダンス・ダンス・ダンスール」は、努力ではどうにもならないもの、才能の残酷さをこれでもかと見せつける作品でもある。

都のいとこで、高いバレエの技術を持ちながら、自室に引きこもっている流鶯
都のいとこで、高いバレエの技術を持ちながら、自室に引きこもっている流鶯[c]ジョージ朝倉・小学館/ダンス・ダンス・ダンスール製作委員会

累計発行部数が230万部を突破している原作コミックスは現在23巻まで刊行され、24巻が8月下旬に発売予定とのこと。今回のアニメ化はそのうちの5巻までで、潤平にとって中2の春から夏休みの時期を描いた物語となる。“日本が生んだ世界のバレエ団”として国内外で高く評価されている東京バレエ団のトップダンサーたちによるアクションを映像化した美しいビジュアル表現など、見どころもたくさん。夢に向かって突き進む少年少女たちの不器用な奮闘はまだ始まったばかりなので、これからの彼らの挑戦と成長をワクワクしながら見守りたい。

文/石塚圭子

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