『セカコイ』『TANG タング』、『アキラとあきら』へ…“恋愛映画の旗手”には収まらない三木孝浩ワールド
恋愛や青春をベースにしつつ、SFやアクションにも挑戦!
日本の映画界は、昔からジャンルや得意分野で分けたがる傾向にある。ラブストーリーを撮る監督にはラブストーリーのオファーが殺到し、バイオレンス系の監督はバイオレンス映画と共に生きる道を強いられる。本人の意思とは関係なく、そうなりがちだが、三木監督はたぶんそのスパイラルを前向きに捉え、キラキラ映画でスキルを磨きながら、“その時”が来るのをじっと待っていたのかもしれない。
その起爆剤になった映画が『フォルトゥナの瞳』(19)だ。本作は、“他人の死が見えてしまう不思議な能力=フォルトゥナの瞳”を持ってしまった青年、慎一郎が、最愛の女性、葵の“死”に立ち向かう姿を描いたSFファンタジー。ラブストーリーの要素ももちろんあって、それぞれに自分の秘密を相手に気づかれないように接する慎一郎と葵の恋模様を、2人を演じた神木隆之介と有村架純の表情のうつろいでいつも以上に繊細に伝えていた。だが、それとは別に、“他人の死が見える”慎一郎の能力を、自然に「二度見をする」という神木が提案したアイデアを取り入れて視覚化。その特殊な世界観を現実社会の出来事に引き寄せると、近鉄の樫原神宮前駅を借り切って撮影したシーンでは、線路に飛び降りた慎一郎が走ってくる列車を止める迫力のスペクタクルを完成させ、力強いSF映画も撮れることを実証した。
さらに、2021年にはSF小説の古典でもあるロバート・A・ハインラインの世界的大ベストセラーを映画化した『夏への扉 ーキミのいる未来へー』を発表。主人公がアメリカの1970年から2000年代にタイムスリップしてしまう原作小説の設定を、1995年から2025年の東京に移す大胆なアレンジをし、SFに対する造詣の深さを示してみせた。しかもここでは、小説に登場しないヒューマノイドロボットのPETE(ピート/藤木直人)を、主人公の宗一郎(山崎賢人)に影響を与えるキャラとして登場させ、そのこだわりの動きと共に、作品世界に独自の魅力も加えた。
また、韓国映画『ただ君だけ』(11)を吉高由里子と横浜流星の共演でリメイクした2020年公開の『きみの瞳が問いかけている』では、「格闘技が大好き」という自らの言葉を実証する迫力のアクションにも挑戦!極真空手の世界チャンピオンになったこともある横浜のスキルを最大限に活かした、スリリングで生々しいファイトシーンは観る者を圧倒した。