阿部サダヲの凄みに迫る!ハイテンション芸、ヤサ男、闇を抱える殺人犯…『アイ・アム まきもと』へと続く“振り幅”
心温まる「マルモのおきて」や『奇跡のリンゴ』『殿、利息でござる!』で見せたひたむきさ
しかし、騒々しい役柄ばかりが阿部の持ち味ではない。過去には困難に真摯に向き合うまじめなキャラクターを演じて、観る者の胸を熱くさせたことも。
芦田愛菜、鈴木福らスター子役を輩出し、日本中にマルモブームを巻き起こした2011年放送のテレビドラマ「マルモのおきて」では、親友の忘れ形見である双子を引き取る独身サラリーマンの高木護役で出演した阿部。子育て経験がいっさいない護が様々な出来事を経験するうちに、薫(芦田)と友樹(鈴木)と本物の家族となっていく姿に心が洗われた。
また、実在する人物を演じることも多く、『奇跡のリンゴ』(13)では妻の健康を取り戻すために無農薬栽培を模索するリンゴ農家の木村秋則役を好演。そして、初めて時代劇の主演を務めた『殿、利息でござる!』(16)では、重税に苦しむ仙台藩の吉岡宿の民衆のために一計を案じる、造り酒屋の当主である穀田屋十三郎役に。自らの損得を度外視して命をかけた大勝負を仕掛ける大胆さと実直さ、そしておとぼけ具合のさじ加減は絶妙だった。さらに、2019年の大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」では、第二部の主人公である東京オリンピック招致に尽力した田畑政治を熱量高く演じ、その表現力の高さを見せつけた。
クズ男を演じた『彼女がその名を知らない鳥たち』『MOTHER マザー』に、観る者を戦慄させる『死刑にいたる病』
このほか、阿部の役者としての凄みを実感させられるのが、シリアスな役柄のなかにも趣が異なる以下の4作品。
『すばらしき世界』(21)の西川美和監督がメガホンをとった『夢売るふたり』(12)では、火事に遭った小料理屋を立て直すために結婚詐欺をはたらく夫婦役に、松たか子との共演で挑んでいる。葛藤しながらも徐々に騙しのテクニックをエスカレートさせていく危うさを繊細に演じた。
また、第60回ブルーリボン賞で主演男優賞を受賞した『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)では、自堕落に暮らす妻(蒼井優)を偏愛する下品で冴えない陣治役で登場。そのキャラクター造形は完璧で、妻に向けた不器用な愛の示し方は衝撃的だった。一方、実在の事件「少年による祖父母殺害事件」に着想を得た『MOTHER マザー』(20)では、息子を虐待する母の秋子(長澤まさみ)に執着し、依存する内縁の夫役に扮し、DV被害や貧困から抜け出せない現在進行形の歪んだ社会構造を告発する役割を担った。
さらに、白石和彌監督と2度目のタッグを果たした『死刑にいたる病』(22)の連続殺人犯役にも震えた。温もりを感じさせる笑顔の下に隠された破壊への衝動、阿部が描きだすゲーム感覚で死を捉えるサイコパスの不気味さには、誰しもが圧倒されてしまったはずだ。