炊きたてご飯に塩辛、すき焼きに舌鼓…荻上直子監督作品に欠かせない”食”の味わい

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炊きたてご飯に塩辛、すき焼きに舌鼓…荻上直子監督作品に欠かせない”食”の味わい

「生と死」をテーマとする『川っぺりムコリッタ』で“生”とイコールである“食”

さらに『川っぺりムコリッタ』においては“食”が特別な役割を担っている。これまでの荻上作品でもたくさんの食事シーンが描かれてきたが、それは日々の暮らしを営む上で、欠くことのできない日常的行為としての描写だった。

しかし荻上監督は本作のトークイベントで、「この映画の全体に流れているテーマが、“死”。死の反対にあるのが“生”。“食べる”ということが、直接“生”に結びついているような感じに描いた」と説明している。

山田に遺骨を引き渡す市役所職員に扮したのは柄本佑(『川っぺりムコリッタ』)
山田に遺骨を引き渡す市役所職員に扮したのは柄本佑(『川っぺりムコリッタ』)[c] 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

この言葉を端的に示すエピソードが前半早々に登場する。この地にやってきたばかりの頃、無一文同然だった山田は初給料が出るまでひたすら空腹を耐え忍んだことがあった。ギリギリの状況に陥った彼を救ったのは島田がなにげなく差し入れてくれた野菜。このシーンでは死と生はまさに隣り合わせであり、「死んでも構わない」とすら思っていた山田はキュウリやトマトをむさぼり喰うことで、 無意識に“生きる”ことを選択したのである。

食べる“食”、育てる“食”、妄想する“食”が描かれる!(『川っぺりムコリッタ』)
食べる“食”、育てる“食”、妄想する“食”が描かれる!(『川っぺりムコリッタ』)[c] 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

重たいテーマを含みながらも本作が明るい光で満たされているのは、主人公の「生きよう」、「生きたい」という心の奥底にある想いがスクリーンに映り込んでいるからなのだろう。山田を体現する松山はこのシーンの撮影にあたり何日か絶食をして臨んだというが、演技を超えた見事な食べっぷりは必見だ。

生と死の境界線の曖昧さは例えれば空の色の移ろいのようなもの(『川っぺりムコリッタ』)
生と死の境界線の曖昧さは例えれば空の色の移ろいのようなもの(『川っぺりムコリッタ』)[c] 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

ちなみにムコリッタとは「仏教の時間の単位の1つ」のこと。本作ではこの言葉に“ささやかなシアワセの時間”や“生と死の間の時間”などの意味が込められているのだという。


本作の料理を手がけたのはフードスタイリストの飯島奈美。家庭的かつ心華やぐ料理で映画以外にもドラマやCMなど多方面で活躍する売れっ子だ。荻上監督とは今回紹介した4作品以外に『トイレット』(10)などでタッグを組んで世界観の実現に一役買っている。

山田家のある日の夕食(『川っぺりムコリッタ』)
山田家のある日の夕食(『川っぺりムコリッタ』)[c] 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

荻上作品に登場する人々は“食”を謳歌し、“食”と丁寧に向き合うことで人生もまた丁寧に生きている。食べることで“生きる大切さ”を訴える『川っぺりムコリッタ』。日常を彩るささやかなシアワセを本作の登場人物たちと共に味わってほしい。

文/足立美由紀


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