「ひよっこ」「この世界の片隅に」『“それ”がいる森』まで…ジャンルにとらわれない多彩な魅力を放つ松本穂香
ヒロインを演じたドラマ「この世界の片隅に」やCMなどで注目されて以降、話題の映画やドラマに次々に出演している松本穂香。出演作のジャンルは多岐にわたり、演じる役柄も戦時下の女性から不思議ちゃん、料理人、難病と闘う女性までバラエティに富んでいる。そんな彼女が、公開中の『“それ”がいる森』でホラー映画に初挑戦している。
本稿ではそんな松本の出演作を振り返りながら、彼女の魅力や『“それ”がいる森』での見どころを紹介していく。
女優志望からデビュー、ブレイクまで
松本が俳優業に目覚めたのは高校生の時。演劇部の舞台で気持ちよさを味わい、自分の芝居を褒められた彼女は、2013年のNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」を観て俳優を志すように。その後自ら応募した現事務所のオーディションに合格し、2015年の『風に立つライオン』で長編映画デビューを飾ると、2017年の「ひよっこ」のオーディションを勝ち抜き、デビューからわずか2年で念願の朝ドラ初出演を果たした。
本作で松本が演じたのは、有村架純が扮したヒロイン、谷田部みね子が上京して働く工場の同僚、青天目澄子。中卒で福島から出てきた前髪パッツンのおかっぱ頭に、メガネをかけた大食い田舎娘だったが、その見た目も強烈なキャラも手伝って一躍脚光を浴びることに。
翌年にはauのCM「意識高すぎ!高杉くん」シリーズの“松本さん”役でさらなる注目を集めた。その後、こうの史代の人気コミックを大ヒットアニメに続いて実写化した同年のドラマ「この世界の片隅に」では、応募総数約3000人のなかからヒロインの北條すず役に大抜擢。連ドラ初主演となる本作では視聴者の涙を誘う熱演も話題になり、それが本格的なブレイクへとつながった。
唯一無二の輝きで立て続けに主演作が公開
多彩な顔と唯一無二の存在感を印象づけた松本を、映画界も放っておくわけがない。2019年からは、期待の新鋭監督からのオファーを受けた主演作が相次いで公開されるようになる。初主演作となったふくだももこ監督の『おいしい家族』(19)では、亡き母の服を着て、居候の男性、和生(浜野謙太)との結婚を宣言する父(板尾創路)に戸惑う橙花を瑞々しい感性で体現。続く中川龍太郎監督の『わたしは光をにぎっている』(19)では、長野から上京し、父親の親友が経営する銭湯を手伝いながら自らの手で自分の居場所を見つけようとする澪を等身大で熱演した。
少し変わった役どころに挑んだのは、菊池真理子の実体験に基づく同名小説を片桐健滋監督が映画化した『酔うと化け物になる父がつらい』(20)だ。本作では毎日酒に溺れて騒動を起こす父(渋川清彦)と、新興宗教に溺れた母(ともさかりえ)に振り回される長女のサキに扮したが、あたふたする松本の姿はかわいらしく、辛辣な話を温もりが感じられるものにしていた。
さらに、『おいしい家族』のふくだ監督と再びタッグを組んだ『君が世界のはじまり』(20)では、ヒロインの縁に扮し、地方都市に住む若者の閉塞感をリアルな息遣いで表現。角川春樹の最後の監督作『みをつくし料理帖』(20)にも、角川からの直々のオファーで主演。大阪から出てきて奮闘する“江戸の料理人”である澪に扮し、猛練習で培った華麗な包丁さばきで、美味しそうな料理を次々に作り上げていたのも記憶に新しい。