『すずめの戸締まり』『かがみの孤城』から『トトロ』まで…映画で描かれた日常のすぐ隣にある”異世界への入り口”
大ヒット上映中の新海誠監督作『すずめの戸締まり』に、史上最多の得票数で本屋大賞を受賞し、累計発行部数は170万部を超えるファンタジーミステリーを劇場アニメーション化した『かがみの孤城』(公開中)。この2作品では、いつもと変わらない生活を送っていた少女が、ある日突然、非日常空間へと足を踏み入れたことで物語が動きだす。これまでも多くの映画で、異世界へと迷い込む主人公の姿が描かれてきたが、今回はそんな”日常のすぐ隣にある異世界への入り口”が登場する作品を紹介したい。
扉を開けた先に広がる異世界『すずめの戸締まり』『モンスターズ・インク』『ハウルの動く城』
九州の海にほど近い町で暮らす17歳の女子高生、鈴芽(声:原菜乃華)が、災いをもたらす扉を閉めるために旅をする“閉じ師”の青年、草太(声:松村北斗)と出会ったことで物語が始まる『すずめの戸締まり』。草太と共に日本各地で次々と開いていく扉の戸締まりをすることになった鈴芽は、言葉を話すことができる不思議な猫、ダイジンのあとを追って九州から四国、関西、東京へと渡り歩いていく。旅先で直面する困難を、たくさんの善意に助けられながら乗り越えていく鈴芽。旅の果てで明らかになる、彼女の忘却の彼方にあった真実に心が揺さぶられるはずだ。
『すずめの戸締り』と同様に、異世界と現実をつなぐ“扉”が登場するのが、ディズニー/ピクサーのフルCGアニメーション『モンスターズ・インク』(02)。扉の先にあるのはモンスターたちが暮らす世界で、そこでは“人間の悲鳴”をエネルギー源に変えて街へと供給する「モンスターズ株式会社」が営まれていた。会社のエースであるサリー(声:石塚英彦)と相棒のマイク(声:田中裕二)は、人間世界から迷い込んできた少女ブー(声:井上愛理)と絆を結んでいく。そんな彼らの職場には世界各国の子ども部屋へとつながる扉が用意されていて、カラフルな扉が行き交う様子にワクワクさせられる。
そして、イギリスの児童文学作家、ダイアナ・ウィン・ジョーンズのファンタジーノベルを原作とするスタジオジブリ製作『ハウルの動く城』(04)では、呪いによって老婆の姿に変えられた少女ソフィー(声:倍賞千恵子)が、自由に移動できるハウル(声:木村拓哉)の城で暮らしている。魔法使いであるハウルの城の扉は港町や荒地など複数の場所へ行けるようになっているのだが、そのうち1か所はハウルだけが知る秘密の場所へと通じているのだった。
鏡の中の異世界へ…『かがみの孤城』『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』『Dr.パルナサスの鏡』
また、異世界へと通じる入口として“鏡”もまたよく知られるモチーフだ。辻村深月のベストセラー小説を原作とする『かがみの孤城』では、学校での居場所をなくした中学生のこころ(声:當真あみ)が、鏡の先にある城へと引き寄せられていく。まるでおとぎ話に出てくるような豪華な“孤城”に集まった中学生7人は、狼のお面をかぶった「オオカミさま」と呼ばれる少女(声:芦田愛菜)からなんでも願いを叶えてくれる鍵の存在を告げられるのだが…。それぞれが人に言えない願いを抱えた彼女たちが、友情を育みながら成長していく姿に勇気がもらえる一作だ。
ティム・バートン監督による『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』(16)は、ルイス・キャロルの児童小説「不思議の国のアリス」の続編「鏡の国のアリス」をベースとする物語。青い蝶に導かれたアリス(ミア・ワシコウスカ)が、鏡を抜けてワンダーランドへと舞い戻る。そして、マッドハッター(ジョニー・デップ)の危機を救うためにアリスは様々な困難に挑んでいく。
一方、鏡を媒介としためくるめく異色作が『Dr.パルナサスの鏡』(10)。テリー・ギリアム監督による本作では、パルナサス博士(クリストファー・プラマー)の不思議な鏡の先にどんな欲望も叶えてくれるパラレルワールドが広がっている。永遠の命と引き換えにされてしまった博士の娘を救おうとする青年トニーをヒース・レジャーが演じ、撮影中に急死したレジャーのあとを引き継いだジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルらが作品世界をさらに拡張している。