野性的なヴァイキング役がハマりすぎ!悲願を叶えた『ノースマン』アレクサンダー・スカルスガルドに迫る
“復讐”に囚われ続ける主人公の苦悩と葛藤を描くこと
父王を殺した宿敵への復讐劇…。一見すると、『ブレイブハート』(95)や『グラディエーター』(00)にも通じる英雄譚へと物語は展開していきそうなところだが、監督が『ライトハウス』で“男らしさ”の有害性を描いたエガースだけにそうはならないのがおもしろいところ。復讐を実行に移す過程で、古い塚で“魔剣(?)”を入手したアムレート。夜の闇の中でのみ、適切なタイミングでしか鞘から抜くことができないというこの剣を使って、フィヨルニル陣営への粛清を行いじわじわと精神的に追い詰めていく。一連の流れをそのまま受け取ると、運命に導かれるようにアムレートが行動しているように見えるが、すぐ目の前にフィヨルニルを殺せるチャンスがあっても剣を鞘から抜くことができない瞬間があり、実は復讐を果たすことに迷いを持っているのでは?とも想像させられる。まだその覚悟ができていないため、あえて回りくどい方法を取っているようにも映るのだ。
アムレートは幼い頃、オーヴァンディルに「私を討つ者がいれば必ず復讐しろ」と何度も刷り込まれていて、その言葉に囚われ続けている。劇中では、“大鴉王”の異名を持った父王の象徴でもあるカラスが何度も意味ありげに現れており、彼の使命感を焚きつけているようにも考えられる…。そしてついに、フィヨルニルの農場で親しくなった奴隷の少女オルガ(アニャ・テイラー=ジョイ)の協力も得ながら、母との再会を果たすアムレート。しかしそこで彼は、叔父の裏切りにまつわる衝撃の真実を聞かされる。“父王の仇を討つ”“母を救いだす”、その想いだけで孤独な戦いを続けてきたのだが、復讐自体の意義を己に問いかけざるを得なくなり、心が揺らいでしまうのだ。本作のベースになっている北欧伝説はシェイクスピアの「ハムレット」のモデルになったとも言われ、“復讐”に翻弄される主人公の葛藤や苦しみも見どころ。そういったアムレートの心の脆さもスカルスガルドが丁寧に表現しており、現代的なメッセージを持った新しい形の歴史劇として本作を作り上げている。
スカルスガルドをはじめ、王妃役でインパクト大な怪演を見せるニコール・キッドマンや強い信念を持ったオルガを演じるアニャ・テイラー=ジョイ、父王役のイーサン・ホーク、道化役のウィレム・デフォーと豪華キャストの共演にも注目の本作。物語の舞台となる9世紀のスカンジナビア地域を再現するため、北アイルランドで撮影された広大なロケーションや建築物のセットによる壮大な世界観は圧巻で、クライマックスでのマグマが噴き出す火山を背にしたアムレートとフィヨルニルの決闘シーンもまた、劇的でビジュアル的にもカッコいい!没入感も抜群の『ノースマン 導かれし復讐者』をぜひ、劇場で体感してほしい。
文/平尾嘉浩