サイコホラーのようなテンションに緊張しっぱなし！グザヴィエ・ドランの初のテレビシリーズを解説

『Mommy／マミー』(14)など話題作で知られ、“カンヌの申し子”と称されるグザヴィエ・ドラン監督が初めて手掛けたテレビドラマシリーズ「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」が、Amazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX」にて独占配信中。さらにスターチャンネルEXでは、現在ドラン監督作がすべて観られる特集企画も展開中だ。謎に包まれた本作を紐解くべく、フランス在住の映画ジャーナリスト、佐藤久理子が解説する。

Amazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX」で「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」を観る

※以降、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

秘密、裏切り、嫉妬、愛憎が渦巻く、暴力的とも言える家族のドラマ

「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」はAmzazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX」にて独占配信中[c] Fred Gervais

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カナダの鬼才、グザヴィエ・ドラン監督による初のテレビシリーズとして話題沸騰中の「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」。すでに病みつきになっている方も少なくないと思われるが、ここであらためてシリーズの魅力と、ドランの異才ぶりについて振り返ってみたい。

本作はミシェル・マルク・ブシャールの戯曲を基に、ドラン自身が脚本を執筆。秘密、裏切り、嫉妬、愛憎が渦巻く、暴力的とも言える家族のドラマは、まさにドランの十八番で、『たかが世界の終わり』(16)や『トム・アット・ザ・ファーム』(13)を彷彿させる。

【写真を見る】狂気に満ちた若きドランの表情も見もの！劇作家ミシェル・マルク・ブシャールの戯曲を映画化したサスペンス『トム・アット・ザ・ファーム』[c] XAVIER DOLAN

もっとも、全5話にわたる長いスパンに合わせて、ドランは登場人物を増やすと共に、各エピソードの終わりに、次回への期待を膨らませるクライマックスを用意する。彼によれば、「テレビドラマ好きだった母親の影響で、子どものころはカナダのテレビドラマをよく観ていた。その後は『バフィー』のようなティーン・ドラマシリーズ。映画よりもテレビドラマを観ていたことのほうが多いな(笑)。だからドラマシリーズのリズムや形式には慣れていた。いつかテレビドラマに挑戦したいとずっと思っていた」という。

ラルーシュ家の母マドを演じるのは、ドラン作品常連のアンヌ・ドルヴァル(「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」)[c] Fred Gervais

1991年、ケベック州の郊外。ラルーシュ家の長男ジュリアン(パトリック・イヴォン/イライジャ・パトリス＝ボードロ)、長女のミレイユ(ジュリー・ルブレトン/ジャスミン・ルメー)と、向かいに住むゴドロー家のロリエは仲良し3人組だった。しかし、ある夜の事件を境に3人の人生は一変。ミレイユは秘密を抱えたまま町を離れ、家族と距離を置いていた。それから約30年。母マド(アンヌ・ドルヴァル)が危篤という連絡を受け、ミレイユが帰郷し、ジュリアンとパートナーのシャンタル(マガリ・レピーヌ・ブロンドー)、次男のドゥニ(エリック・ブルノー)、ドラッグのリハビリ施設から出来てばかりの三男エリオット(グザヴィエ・ドラン)ら家族が再び集まることに。そして、マドが残した予想外の遺言が引き金となり、葬り去られていた嘘と秘密に翻弄される…。はたして“あの夜”いったいなにが起きたのか？

若き日のジュリアンは、ロリエ・ドゴローとのある事件を境にドラッグに溺れてく…(「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」)[c] Fred Gervais

30年前に起きた事件を巡って、1話目から物語の伏線が張り巡らされ、様々な事実が小出しにされていく。それぞれのキャラクターが追っている陰はサイコホラーとも言えるテンションを生みだし、観る側は緊張を緩める暇がない。長男は元野球部のヒーローで、母の自慢の息子であったが、ドラッグ癖があり出世街道を転落。また彼を激しく恨む妹は、自虐的な性癖から抜け出せない。次男は一見もっともまともに見えるが、自分の妻や子どもとうまく共同生活を送れない。そしてドラン自身が演じる三男は、やはり薬物中毒でリハビリを繰り返している(傷だらけのメイクが痛々しい）。そしてそれらの理由の原因が、この家族を崩壊させたロリエ・ゴドローという人物に関する出来事だとわかってくる。やがてゴドローが長男の学生時代の親友であり、妹が想いを寄せる相手だったことが描かれるあたりから物語は加速するが、徐々に濃くなるホモセクシュアリティ色が、複雑なパズルにいっそう謎をもたらす。