サイコホラーのようなテンションに緊張しっぱなし!グザヴィエ・ドランの初のテレビシリーズを解説
「僕の映画にはいつだって僕自身がいる。作品を撮るたびに、僕自身も生まれ変わっていく」
ドランが生粋の映画愛好家ではなく、むしろアート全般から影響を受けて育ったことも、ジャンルにとらわれず自由な発想をもたらす所以と言えるかもしれない。彼の初期の作品は特にウォン・カーウァイと比較されることが多かったが、「もちろん彼やガス・ヴァン・サントの作品は大好きだけど、少なくとも自分自身が感じるに、誰か特定の映画監督から強い影響を受けたわけじゃないと思う。むしろ写真や絵画など、ほかのヴィジュアル・アートからの影響が強いと思う」と語っている。
19歳で自伝的な初監督作『マイ・マザー』(09)でデビューして以来、「僕の映画はいつだって僕自身がいる。ストーリーやキャラクターはつねに自伝的ではないけれど、そこには僕の人生の反映がある。そして作品を撮るたびに、僕自身も生まれ変わっていく」と自負してきたドラン。そんな彼も今年34歳を迎えたが、なんと本作を最後に、長い休憩に入ることを宣言している。前作『マティアスとマキシム』のころからすでに、「ペースを緩めたい」と語っていたが、今回は本当に休止するつもりらしい。
「いま2つの企画があることはあるけれど、自分が脚本を書くわけではないからどうなるかはわからない。このテレビシリーズですべてを出し切って、空っぽになってしまった気がするんだ。これまでずっとノンストップで映画を作ってきたのは、自分のなかに言いたいことがたくさんあったから。でもいまはその気持ちが薄らいで、ここで休憩したいと思っている。それに映画以外のことをする時間や、プライベートの時間をもっと持ちたいと思う気持ちのほうが強い。建築や旅行など、興味はたくさんあるし、心の健康のために時間を使いたい」。
そんなわけで、俳優としての顔もしばらくは観ることができなくなりそうだ。。たしかに5歳で俳優デビューし、19歳からは監督と俳優業を兼任して神童の名をほしいままにしてきた彼は、すでに25年以上のキャリアを持っていることを考えれば、この辺で人生を見直したいと考えるのはもっともかもしれない。引退とは語っていないものの、「長い休憩」が果たしてどれほどになるのだろうか。
とはいえ、アーティスティックな才気あふれる彼が再び、「語りたい」と思うテーマが出てきたとしても不思議ではない。その日を待ちながら、まずはこの最新テレビドラマシリーズの世界にじっくりと浸ってほしい。
文/佐藤久理子