『惑星ソラリス』『キン・ザ・ザ』…ロシア最大の映画スタジオ「モスフィルム」の100年史
YouTubeで気軽に名作を!1400本もの動画を無料公開
近年ではスタジオに博物館を併設するなど新たな試みを続けているが、なかでも注目されているのがYouTube公式チャンネルの開設。100年の歴史を通し製作してきた映画やドラマ、そのワンシーンを切り取ったショートムービーなど、実に1400本を超える動画を無料で公開。そのラインナップには、モスフィルムを代表する名作もずらりと並んでいる(本稿で触れたモスフィルム作品はすべて視聴可能)。
ロシア語(英語字幕付きもあり)というハードルはあるが、例えばテリー・ギリアムやブライアン・デ・パルマたちが自作でオマージュを捧げた『戦艦ポチョムキン』の「オデッサ(オデーサ)の階段」シーンのモンタージュを吟味したり、秋のシーンは秋に撮影とこだわり抜かれた『デルス・ウザーラ』の自然描写などをピックアップしてじっくり堪能するのもよいだろう。
旧ソ連時代は国がバックにいたため、破格のスケールや高い芸術性を持つ作品が多いのもモスフィルムのアドバンテージ。『戦争と平和』では細部まで再現された美術や衣装のほか、12万人のエキストラを動員した合戦シーンが盛り込まれ、魔法ファンタジー『石の花』(46)やアドベンチャー『虹の世界のサトコ』(52)などファミリー枠の作品でも美術や撮影、特撮面などに同時期の欧米映画を凌ぐカットが見て取れる。
“映像の詩人”アンドレイ・タルコフスキー作品も、無料鑑賞が可能に!
タルコフスキーの旧ソ連時代の長編もモスフィルム製で、それらも視聴が可能だ。詩人アルセニー・タルコフスキーを父に持つタルコフスキーは、国立映画大学で学び卒業制作の中編『ローラーとバイオリン』(61)でニューヨーク国際学生映画コンクール1位を獲得。翌年の初長編『僕の村は戦場だった』はベネチア国際映画祭グランプリに輝いた。この作品は戦火で両親を亡くし偵察兵となった少年を描いた悲しく美しい物語。実験的表現も使った幻想的な映像に引き込まれてしまう一本だ。
続く『アンドレイ・ルブリョフ』(69)は15世紀のイコン画家、アンドレイ・ルブリョフの生涯を描いた伝記映画。解釈や過激な描写をめぐり当時公開が禁じられたが、問題箇所を削除した短縮版で公開された。YouTubeには、約205分のオリジナル版がアップされているのがうれしい。
『惑星ソラリス』は人の潜在意識を実体化する力を持つ海と、その研究のため惑星を訪れた科学者のファーストコンタクトもの。宇宙ステーションのセットや“海”の特撮、未来都市として映しだされる首都高速(東京)の景観など、欧米のSFとはひと味違う重みのあるビジュアルも見どころだ。
『鏡』はタルコフスキーが自身をモチーフに、現在と過去の記憶を行き来していく映像詩。時間の境界が曖昧で、主人公の妻と息子を、記憶のなかの母と幼い自分と同じ俳優が演じるなど不思議な時間感覚を持っている。凝った撮影や音の使い方も独特で、その世界に触れてみてはどうだろう。
『ストーカー』(79)は、タルコフスキー2本目のSF映画。廃墟のような立ち入り禁止区域ゾーンにあるという、“願いを叶える部屋”へ密かに人々を案内するストーカー(密猟者)の物語。ゾーンとは聖地かそれとも危険な場所なのか。象徴的に映しだされる原子力発電所、奇妙な能力を使う障がいを持つ少女、徐々に弱っていくストーカー…。様々な解釈ができる本作を最後に、タルコフスキーは活動の場を国外に移した。
モスフィルム公式チャンネルにはHDや4Kリマスターの映像も数多くアップされており、作品によってはソフトより画質が高いものもある。このチャンネルを、目にする機会の少ない名作たちに気軽に触れるポータルとして使うのもよいだろう。気になった作品があれば、じっくりソフトなどで味わってほしい。
文/神武団四郎