清水崇監督が読者の質問に次々回答!GENERATIONSとの撮影現場で起きた恐怖体験、いままでで一番怖かった映画は?
「広い意味での『メディア』を通して恐怖や呪いが伝達するというのは日本のホラー映画で度々用いられる、日本ならではのユニークな手法のようにも思われます。今回監督が『カセットテープ』を題材にしたのは、何からインスピレーションを得たのでしょうか?また、日本のホラー映画でそういった手法が取られやすいのはなぜだと思われますか?」(20代・男性)
「前作の『忌怪島/きかいじま』ではVRの世界や脳科学といった現在よりも少し進んだ技術を取り入れました。なので、今回は逆に遡ってみたいなという想いがあったのと、GENERATIONSの皆さんに出てもらうことが決まったからには音楽が元凶になる恐怖がいいなと。実はメンバーのなかにはカセットテープコレクターがいるのですが、ちょうど彼らの世代はカセットテープを知っているか知らないかの世代なので、そこまで遡ってみることにしました。
また、ちょうど僕が高校生くらいの時、歌謡曲に妙な声が入っているという都市伝説がテレビやラジオで取り上げられて、夏になると盛り上がっていたんです。それを思い出して逆再生も使ってみようと、どんどんカセットテープの方向で固まってきました。ただこういうものが使われるのはJホラーだけではないと思います。これらが日本の妙味と捉えてしまうのは、未だに島国の精神的な考察の狭さが存在していると思えます。ただ、日本には古から、言霊や八百万の神さま的な…物事に魂や神が宿るといった考えに基づいた文化が存在しているので、その辺の感覚をDNAで受け継いでいる可能性はあると思います。しかし、欧米でもアナログの古いカメラが登場したり、さまざまなコミュニケーション・ツールや新技術、あえて古い機械などが、モチーフとして使われることはよくあるので、いろいろと探してみるとそれぞれの国の捉え方や認識の違いが見えておもしろいと思います」
「『呪怨』シリーズの伽椰子さんと俊雄くんのようなホラーアイコンが、『忌怪島』ではイマジョ、『ミンナのウタ』ではさなちゃんと最近の作品でまた作られ始めてると感じます。ホラー作品にはこうしたキャラクターが必要だと思いますが、清水監督流の“怖い”キャラクターの作り方を教えてください。また、以前伽椰子さんが貞子さんと戦う映画があったように、マルチバース化の構想はありますか?」(30代・男性)
「僕は老人とか子どもを恐怖の対象として使う(捉える)のが好きなんです。同じ人間でありながら、みんな子どものころの記憶っておぼろげで、自分も通ってきたはずなのに大人になると5歳の子の気持ちに寄り添えなくなってくる。逆に高齢の方も、自分がいずれそうなるとわかっていても気持ちをわかりあうのが難しかったり。そういうところから生まれる意思疎通が難儀な感覚を恐怖のアイデアとして使いたくなります。ただ、やはりホラーアイコンに女性が選ばれやすいのは、男性のほうが単純で、腕力もあるし直接的な力に訴えることができるのに対して、女性は男性に比べればそうはいかないからでしょう。その分、内面に秘めている力、想いや精神力、執着心などが強い気がするからかもしれません。そんな感覚は、特にアジア圏では似ています。逆に、欧米圏では男性的というか、もっとバイオレンスなホラー描写が多い印象です。そこにさらに違った宗教観なども加わってきますしね。同じく子どもがなにか恐ろしいことをしでかしても、最終的に悪魔がとり憑いていたせいにされるのは、日本人では怖く感じれないというか…ピンとこなかったりしますしね。身近な具体性を感じ難いのでしょう。
マルチバース化については、いまのところその構想はないですね(笑)。今回の『ミンナのウタ』のなかには、“俊雄”って男の子が出てきますが、それも適当に名付けただけですので(笑)。韓国の映画祭に出品した際にも同じことを聞かれましたけど、『たまたまです』と答えるしかなくて…。マルチバースは最近のアメリカのヒーローもの映画でよくありますし、日本でも、松本零士先生の漫画や、その延長のアニメ作品などでありましたけど、それは有名でみんなが知っている前提があって初めておもしろくなるものですし、ちょっと作り手の過去にすがるエゴを感じてしまったりもします。前作やそれまでの過去作やシリーズを観てきた人はおもしろいと思っても、そうでない人にとってはなんのこっちゃ。僕は、そういうのは出来れば避けたい。だから今回も、GENERATIONSをまったく知らない人や、世界中の老若男女にも怖がり、楽しんでもらえたら…欲を言えば、この映画きっかけで彼らに興味を持ってもらえたら…と思っています。まあ冗談としては俊雄くんとチャッキーが一緒になったらとか考えたことはあるんですけど…調子に乗っていると言われそうで(笑)」
「好きな人と見に行くのにおすすめですか?」(10代・男性)
「はい、すごくおすすめです。彼氏や彼女がたくさんいる人は全員と何回も観てもらっても大丈夫です(笑)。おすすめの誘い方は、『ミンナのウタ』というほのぼのしたタイトルの映画があるんだけど行かない?って。それで予備知識ない人を連れて行って引っ叩かれてフラれるのもまた人生なんじゃないですかね(笑)。僕も『ダークナイト』を観に行った時に、一緒に行った女の子から『え、これって…バットマンだったの…?』と言われたことがありました。タイトルだけではわからない作品ですが、みんなでワーキャーできる映画だとは思います」
「私の周りには、『ホラー映画』だから観ないという人が一定数います。気持ちはわかるのですが、恐怖描写への耐性があるかだけで、映画の人気ジャンルの一つが観れないのはどこか勿体ない気持ちになってしまいます。子どもから大人まで、すべての人が観ることができる『ホラー映画』を実現することはできるのでしょうか」(20代・男性)
「それはなかなか難しいですね…。僕も中学生までは、なんでわざわざ怖いものを観るのかという気持ちだったので、観たくない人の気持ちもわかりますし、いまでは逆に勿体ないと思う気持ちもわかります。ただ、怖がることをエンタメとして楽しめるというのは人間の特権です。はじめは抵抗があると思いますが、少しずつ入っていければ、楽しみ方を会得することはできると思います。僕自身もそうだったからです。
なかにはホラー映画=物語性もなにもなくて、血飛沫や残酷描写ばかりだと想像している人もいるし、苦手な方ほどそう思い込んで“食わず嫌い”になってしまっているんだな…とは感じます。なので、そうじゃないんだよって扉を開けてあげたい。でも無理やり勧めるのも良くないですよね。ただみんな案外ゲンキンなので、試写会の案内を渡すと『タダだから』と観に行ってくれるんです(笑)。それで『ホラーの見方が変わりました』とか『これからもっとホラーを観てみます』と言われるとすごくうれしいですね。なので少しずつ勧めていければ…いきなり激しい内容だと拒否反応を持たれてしまうので、こういう内容なら観られるかな…と考えることも必要でしょう。
僕自身の映画だと…客観視が難しいので選べないのですが、以前『犬鳴村』の時にほとんどホラーを観たことがないという年配の女性から『監督さん、これをホラーとか言っちゃダメよ!これはホラーなんかじゃないわ!』と妙にどやされたことがありました。よくよく聴いていると、その方は感動してくれたらしいんです。それってつまりホラー=下衆で低俗で駄目なものという決めつけた見方があったからなんですよね(苦笑)。つまり昨今よく言わあれる“無意識の差別/偏見”でもあるんです。でも僕はホラーやピンクとか本能に根差しえるのにネガティブに隠されがちな文化って、どこかで偏見や差別こそないと逆につまらなくなってしまう気がしているんです。だからホラーというものがどう思われていようと、その人のなかでなにか変わって見えてくれたなら、良かったのかなと」