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【ネタバレあり】評論家、荻上チキが『ウィッシュ』を徹底解説!「マグニフィコ王にはコンテンツカルチャー全体の象徴も込められている」

インタビュー

【ネタバレあり】評論家、荻上チキが『ウィッシュ』を徹底解説!「マグニフィコ王にはコンテンツカルチャー全体の象徴も込められている」

「キャラクターたちが革命を起こす『真実を掲げ』など、これまでと異なるサウンドを楽しめる」

――冒頭でもミュージカル形式の話が出ましたが、そのあたりの今回の印象を聞かせてください。


荻上「前半はミュージカルのスタイルとして、過去のディズニー作品らしいクラシカルな印象でした。ミュージカルでは主人公が、境遇や夢を説明するアイウィッシュソングを歌い、後半でまた、主人公の成長などを込めたリプライズが歌われるのが定番です。今回の歌『ウィッシュ』では、英語では“So I make this wish /To have something more for us than this(だから、こう願う/いま以上のものを私たちの手に)”と歌い、日本語では“この願い/今日よりもっと輝く/この願い/あきらめることはない”と歌われます。このパートではアーシャが、個人の想いではなく、“us=私たち”の願いと歌っているのが本作のポイントです。魔法支配から、民衆が立ち上がる。そんなストーリーのなかで後半、キャラクターたちが革命を起こす場面で歌われる『真実を掲げ』など、『レ・ミゼラブル』のようで、演出的にはもちろん、これまでと異なるサウンドを楽しめるのではないでしょうか」

――たしかにあそこは、ディズニー作品のミュージカル場面としては予想外の激しさも感じられて新鮮です。

「戦う時は立ち上がるという感覚が、打楽器のリズムで表現されています。打楽器といえば『リトル・マーメイド』の『アンダー・ザ・シー』のように牧歌的なシーンでも使われますが、今回は『ライオン・キング』の『準備をしておけ』のようにある種ダークで、けれど決断的なシーンで使われますね。リズムがベースになって、それがやがて別のサウンドやアンサンブルにつながっていく。今回は、王からの束縛を振りほどき、暴力に抵抗する意思がそこに重ねられました」

――荻上さんが個人的にエモーショナルだと感じたのは、どんな部分ですか?

荻上「私はチームワークの展開が好きなので、アーシャと7人の仲間たちが連帯を示す際に、当たり前のように信頼し合う姿に感動しました。また、かつて過ちを犯したと反省するキャラクターが、謝罪することで周囲に受け入れられるところもよかったです。“訂正する権利”と“受容する自由”の大切さを実感できます」

「『ウィッシュ』で宣言された、小さな願いを叶えようという姿勢がどう描かれていくのかに注目しています」

――ほかに、本作で印象的なキャラクターといえば100歳のおじいちゃん、サビーノが登場します。彼は“ディズニーそのもの”を象徴していると言われていますが、彼のことはどう捉えましたか?

荻上「サビーノは、年齢に関係なく周囲の人々を楽しませ、つながることを幸せと捉えるキャラクターです。劇中では、そんな彼の願いを、王は検閲し、反乱因子として抑圧する。これはディズニーの歴史を振り返ると、ある種の戒めとも取れます。そしてサビーノの姿は100歳からでも決して遅くはないということ、これからのディズニーの枠組み、位置づけを作り直していくという表現でもあると解釈しました。マグニフィコ王を過去のディズニーと読み解く人もいるでしょうが、マグニフィコとサビーノの、独占されたビッグウィッシュと、それぞれのリトルウィッシュ。この対比が、エンディングの些細なサプライズを通じた、一つの宣言にも見えます」


”願い”を支配し、選別してきたマグニフィコ王の本当の顔を知るアーシャ
”願い”を支配し、選別してきたマグニフィコ王の本当の顔を知るアーシャ[c] 2023 Disney. All Rights Reserved.

――では最後に、この『ウィッシュ』のあと、ディズニーのアニメーション作品はどこへ向かっていくと考えますか?

荻上「物語の構造に関しては、ディズニー作品は常にシンプルです。信頼していたものに裏切られた。なにかを手に入れて暴走した。目指していたものが達成できなかったが、よりよきものに着地した。その構造のなかで、キャラクターへの共感性を作り上げているのです。近年は人種やジェンダーに注目されがちですが、同時に、『ファインディング・ニモ』や『インサイド・ヘッド』『リロ&スティッチ』のように、キャラクターたちの“発達多様性”や“性格多様性”を広く表現し、また新しいキャラクター造形を生みだしていくでしょう。ヴィランに関しても、『マレフィセント』『シュガー・ラッシュ』『クルエラ』などで、単純な悪ではないという内面を描き、その人物へのリスペクトを発見させてきた。もちろん映画はビジネスであるため、アメリカを中心とした広いオーディエンスを取り込もうとするねらいがあるなかで、限界や矛盾が指摘されることも続くでしょう。『ウィッシュ』で宣言された、それぞれの小さな願いを叶えようという姿勢、それがどう描かれていくのかに注目しています」

取材・文/斉藤博昭

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