パブリック・イメージが観る者の推理の邪魔をする『ある閉ざされた雪の山荘で』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、殺人劇に翻弄される若者たちを描いたミステリー小説の実写化、ヤクザと中学生の奇妙な友情を描く人気コミックの映画化、"透明人間"として生きる移民家族の絆を描くヒューマンドラマの、人物の関係性が物語を動かす3本。
ノンストップで楽しめる脳みそフル回転の109分…『ある閉ざされた雪の山荘で』(公開中)
東野圭吾の同名ベストセラー小説を映画化した本作は、古今東西の小説や映画、ドラマやアニメなどで何度となく使われてきた定番の設定=密室での完全犯罪を描くサスペンス・ミステリー。ただし、そこにちょっと捻りを加え、さらなるおもしろさとサスペンスを生みだしているところが新しい。劇団に所属する7人の俳優。ある宿泊所に集められた彼らは、「大雪で閉ざされた山荘」という架空の設定で起こる連続殺人事件を描いたシナリオで芝居をする最終オーディションに挑むことに。だが、やがてメンバーがひとりずつ消え、本物の血痕がついた花瓶が発見されて…。
注目すべきは、それが予め用意された架空の設定で、参加者全員が“嘘”をつくことも上手い俳優たちというところ。はたしてこれはオーディションなのか?それともそのシチュエーションを使った本当の連続殺人事件なのか?後者の場合、犯人は誰で、その目的は?密室殺人事件を一歩引いた目線の多重構造にしているところが斬新だが、映画版はそれをさらに三重構造へと進化&深化させて、観る者を煙に巻く。7人の俳優を演じているのは、映画単独初主演の重岡大毅と中条あやみ、岡山天音、西野七瀬、堀田真由、戸塚純貴、森川葵、間宮祥太朗。単独でも主演を張れる彼らのパブリック・イメージが観る者の推理の邪魔をする。この人がこんなことをするキャラを演じるわけがない!この人がこんなに早く殺されるわけがない!いや、彼ならこういう手段に出るキャラにも挑戦しそう!二重三重に仕掛けられたトリックを騙されたり、見破ったりしながらノンストップで楽しめる脳みそフル回転の109分だ。(映画ライター・イソガイマサト)
不思議な関係性にときめかずにはいられない…『カラオケ行こ!』(公開中)
「夢中さ、きみに。」や「女の園の星」などヒット作を次々と世に送りだしている大人気漫画家、和山やまの同名コミックを、『リンダ リンダ リンダ』(05)の山下敦弘監督と『罪の声』(20)の脚本家、野木亜紀子が強力タッグを組んで実写映画化!合唱部部長の中学3年生、岡聡実くんが、とある理由から絶対に歌がうまくならなければならないヤクザ、成田狂児に見初められ、嫌々ながらもカラオケ店で歌唱指導をするハメになるのだが…。
遅めの変声期を迎え、思春期ならではの不安や葛藤に揺れる聡実役に抜擢されたのは、オーディションを勝ち抜いた新星、齋藤潤。裏社会に身を置く男の怖さもありつつ、意外に紳士的で大人の包容力と色気を漂わせる狂児役に、多彩な役を演じることに長けた綾野剛。年齢も環境もかけ離れたチグハグな2人の間に生まれる化学反応は絶妙で、単純にカテゴライズできない不思議な関係性にときめかずにはいられない。聡実の学校生活、友だちや家族関係など、オリジナル要素としてプラスされたシーンもまた、どれもキラリと光って、青春映画としての魅力を高めている。中盤までのクスッとさせられるコミカルな調子から一転、後半は意表を突くエモーショナルな展開へ。おなじみの名曲の数々を、役になりきったキャスト陣がカラオケで熱唱する姿が楽しめるのも本作の醍醐味だ。(映画ライター・石塚圭子)
力強さ、思いの強さが悲愴感を拭い去る…『ニューヨーク・オールド・アパートメント』(公開中)
移民問題を扱う映画はますますその数も増え、もはや“描き方としては“新味が失われつつあるが、そんななかでも本作は、厳しい現実をリアルに映しだしながらも“技あり!“な魅力を放つ。等身大の人間臭さとユーモア、驚きとサスペンスフルな展開で最後まで惹き付ける。主人公はニューヨークの片隅で生きる、ペルーからの移民家族。異国で女手一つ、しかも不法移民としてティーンの双子兄弟を育てる大変さ!そんな彼女が白人男性と恋に落ちることで、精神的、経済的安定を求める流れも“よく分かる=共感する“し、それに反発する息子たちの反応も“分かる“。それでも強い信頼と絆で結ばれている彼らの、飾らない家族愛や生き抜こうとする本能が、たくましくてキラキラしていて本気で応援したくなる。
そんな兄弟が“英語学校の美人クラスメート“に恋する展開は甘酸っぱいと同時にサスペンスフルに、一方で母の新しい恋人との暮らしは“もはやブラックユーモアとしか思えないドツボ感“で、一時も目が離せない。案の定、彼らに悲劇が訪れるが、それでも彼らのへこたれない力強さ、互いへの思いの強さが悲愴感を拭い去り、“弱者を虐げるあらゆる者、許すまじ!!“と、観る者を奮い立たせてくれる。彼らが駆け抜ける大都会ニューヨークの、切り取られた“素顔“も見逃せない。監督はこれが長編初監督作となる、スイス出身のマーク・ウィルキンス。各国の映画祭で多数の賞を受賞している。(映画ライター・折田千鶴子)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼