ファンに愛されたマイケル・ガンボン…「ハリー・ポッター」ダンブルドア役での名演を振り返る
『ハリー・ポッターと謎のプリンス』
第6作『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(09)では来るヴォルデモートとの戦いに備えて、“個人授業”をダンブルドアとハリーが実践する。それは“憂いの篩”に保存された記憶を通して、ヴォルデモート=トム・リドルが闇の魔術に傾倒していった経緯を探っていくというものだった。そして、ホグワーツ生時代のトム・リドルを特に気に入っていた新任の魔法薬の教授、ホラス・スラグホーン(ジム・ブロードベント)から“分霊箱(魂を切り分けて不死身になる禁忌の魔法)”にまつわる記憶を入手する。
これまでの先生と生徒という関係性から、本作ではヴォルデモートと共に戦う同志となり、ハリーに対する信頼の高さも感じさせる。7つに分けられた分霊箱(すでに2つは破壊済み)の1つが隠されている洞窟に向かう際には、ハリーを同行させる条件として「命令にすべて従う」ことをダンブルドアは提示。それは場合によってはダンブルドアを見捨てて逃げろということで、その険しい面持ちにはどこか不安を感じてしまう。そして、分霊箱を手に入れるためには毒薬を飲み干さなければならず、「悪かった」「やめてくれ」と泣き叫びながら飲み続けるダンブルドアの姿はかなりショッキングだった。
しかし、観客が抱く不安はここでは終わらない。なんとかホグワーツへ戻ってきたダンブルドアとハリーだが、学校はマルフォイ(トム・フェルトン)が手引きした“死喰い人(デス・イーター)”たちの攻撃を受けていた。衰弱していたダンブルドアは追い詰められ、スネイプに「頼む」と言い残すと、彼が放った“死の呪い=アバダ ケダブラ”を受けて塔から枯れ葉のように落下していくのだ…。これはシリーズにおける精神的支柱が失われた瞬間であり、悲しみで心にぽっかりと穴が空いた感覚を覚えた人も多いだろう。
このように、シリーズ史上最も暗い第6作だが、ハリーと行動を共にするシーンが多いので、ガンボンの名演をじっくりと堪能できる作品とも言える。洞窟へ向かう前、16歳になったハリーを見たダンブルドアが、「ヒゲが伸びとる。成長したな、いまだに君が物置にいた小さな男の子に見える」と感傷に浸っていた。何気ない言葉だが、ハリーに対する愛情の深さがあふれだし、その後の展開を考えると、自身がたどる運命やハリーたちに背負わせてしまう重荷を申し訳なく感じている心情を表現しているとも思えてならない。
『ハリー・ポッターと死の秘宝』
原作小説の最終巻を2部作で映画化した『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』(10)と『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(11)。ダンブルドア亡き世界の物語だが、ハリーとロン(ルパート・グリント)、ハーマイオニーにそれぞれ、金のスニッチ、灯消しライター、「吟遊詩人ビードルの物語」の本を遺品として送り、袂を分かった弟に死別した妹の存在、闇の魔法使いであるグリンデルバルドとの関係も示唆されるなど、依然としてキーマンとして登場する。そのなかでも印象的なのが、ハリーが今際のスネイプから託された記憶のなかで見たダンブルドアと、ヴォルデモートの放った呪いを受けたハリーが“死後の世界(?)”で出会うダンブルドアだ。
前者では、スネイプのハリーの母リリーに対する想いと、彼女の死を受けて、ダンブルドアの指示でハリーを見守ってきたことが明かされる。そして、いずれ復活するヴォルデモートとの戦いに備えて行動していたことも映しだされるが、その最後に、ハリーのなかにはヴォルデモートの魂の一部が入り込んでいて、ハリーが死ぬ運命にあるという残酷な真実も告げている。愕然とするスネイプの視点を考慮する必要もあるが、このシーンのダンブルドアからは非情さ、後ろめたさが感じられる。
真っ白なキングス・クロス駅に似た幻想的な空間でハリーが出会う後者のダンブルドア。ハリーはヴォルデモートが期せずして作ってしまった分霊箱であり、彼自身の呪いによって破壊される必要があったこと、そしていまは解放されたことを説明し、ハリーの選択次第で元の体に戻れると語って消えていく。ここでのダンブルドアは穏やかな表情を浮かべていて、明確な答えではなくヒントだけを与えて決断はハリー自身に委ねる、おなじみのつかみどころのない空気を纏っている。ガンボンが演じる最後のダンブルドアとしてふさわしい登場シーンだった。
ファンに愛されたマイケル・ガンボン
『謎のプリンス』では地面に横たわるダンブルドアを目にし、その死を悼む教師と生徒たちが杖を空に向けて掲げるシーンがあるが、ガンボンの訃報が流れた際には、ユニバーサル・オーランド・リゾートの「ハリー・ポッター」エリアに集まったファンがホグワーツ城に向けて同じように杖を掲げたという。こういったエピソードからも、彼がいかにファンに愛されていたかを知ることができる。ガンボンが残した名演は、数多くの出演作はもちろん、「ハリー・ポッター」シリーズでいつまでも触れることができる。
文/平尾嘉浩