キネマ旬報ベスト・テンは『せかいのおきく』が2冠!助演部門受賞の二階堂ふみ&磯村勇斗が衝撃作『月』への覚悟を振り返る
7作品で受賞の磯村勇斗「誰からなにを言われようが背負っていくつもりで臨んだ」
実際に起きた障がい者施設での殺傷事件をベースにした辺見庸の同名小説を、『舟を編む』(13)や『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17)の石井裕也監督が映画化した『月』。同作で障がい者施設で働く坪内陽子役を演じた二階堂ふみが助演女優賞を受賞。
「社会的にも個人的にも消化することのできないテーマを扱った作品で、映画を通して多くの方々に問うことができる作品になったと思います」と受賞作について語ると、「制作するという話を聞いた時には、本当に作っていいものなのだろうとも考えたのですが、我々が当事者であるという意識をもって向き合っていこうということが大事だと感じ、忘れ去られていったり過去の事件になってしまうことが一番良くない。参加することで自分自身にもちゃんと問い続けたいと思いました」と作品に臨むうえで抱いた心境を吐露。
また、同じ『月』で障がい者を殺傷する青年さとくんを演じ助演男優賞を受賞した磯村も、「やると決めたからには覚悟を持ち、この作品を最後まで撮りきりたいと思っていました。誰からなにを言われようが背負っていくつもりでしたし、自分になにかがあったとしても受け入れていこうという気持ちで臨んでいたので怖いものはありませんでした」と俳優としての使命感の強さをあらわに。そして「ただ一つ怖いと思っていたのは、この映画を観て“第二のさとくん”となる人が誕生してしまうこと。そうならないように石井監督と試行錯誤をしながら作っていきました」と語る。
磯村は『月』以外にも、『正欲』(上映中)と『渇水』(22)、『最後まで行く』『波紋』『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』(すべて23)の計7作品で同賞を受賞。「作品と作品の間では役を切り替える準備期間を設けるようにしていますが、切り替えるのは決して得意ではありません。『月』が難しい役だったこともあり、終わったら時間をあけようと思っていたのですが、『正欲』というすばらしい企画に出会ったがために、期間をあけずになんとかやりきりました」と多忙なスケジュールならではの苦労を明かした。
そして新人女優賞は岩井俊二監督の『キリエのうた』(上映中)でスクリーンデビューを飾ったアイナ・ジ・エンドが受賞。「この場に立たせていただき本当に夢みたいです。岩井俊二監督に見つけていただいたが、こんな私が映画に出れるのか不安でたまりませんでした。でもお芝居の教科書みたいな広瀬すずちゃんが出す波動についていくことでお芝居が楽しくなっていきました」と笑顔で語ったアイナは「この賞を自分一人でいただけたとは思っていません」と、広瀬や岩井監督らキャスト・スタッフ陣、作品を観てくれたファンの方々への感謝を述べ、深々とお辞儀をした。
また、新人男優賞は『ほかげ』で戦争孤児の少年を演じた塚尾桜雅が受賞。現在小学2年生で8歳の塚尾は撮影当時まだ小学1年生。キネマ旬報ベスト・テン史上最年少の受賞に「これを励みにしてこれからもお芝居を続けていきたいと思います」と述べ、「この映画でヴェネチアに行った時に英語に興味を持ちました。将来はハリウッド俳優になりたいと思っています」と大きな夢を掲げ、あたたかな拍手に包まれていた。