時の天皇や藤原道長ともつながりが!意外と知らない?陰陽師&安倍晴明のお仕事
陰陽師に興味がない!?学生時代の安倍晴明を描く『陰陽師0』
夢枕獏の「陰陽師」シリーズを基に、原作者と親交が深く、陰陽師や呪術を研究し尽したという佐藤嗣麻子監督が自ら脚本を執筆して映画化したのが『陰陽師0』。原作での安倍晴明は40歳前後の設定だが、本作は20代後半の晴明を主人公にした完全オリジナルストーリーだ。原作でおなじみの名コンビ、若き日の晴明役を山崎賢人、源博雅役を染谷将太が演じている。
物語の舞台となるのは、当時の最先端の科学技術機関であり、学校だった陰陽寮。天体や自然現象を観測する天文道、暦を作る暦道、水時計によって時刻を告げる漏刻、占いを専門とする陰陽道の4部門によって構成されていた。陰陽寮のなかでも特に重きを置かれたのが陰陽道で、長官である陰陽頭を筆頭に、陰陽博士、天文博士、暦博士、漏刻博士がいた。彼らは国家官僚として実務をこなしながら、次世代の陰陽師育成のために教育も担当。陰陽師を目指す学生(がくしょう)は、博士たちの下で難解な学術書の研究や解読、技術の習得に勤しんでいた。
こうした陰陽寮特有のシステムをわかりやすく説明しながら、いままで描かれることのなかった学生時代の晴明の活躍を描いたところが本作のおもしろさ。晴明がいたころは、貴族以外でも陰陽寮に入ることができたので、陰陽師になって身を立てようという強い決意を持つ学生もいる。幼少期から特異能力を持つと噂され、高名な陰陽師、賀茂忠行(國村隼)が最も目をかける門下生であるにもかかわらず、陰陽師に興味を示さない晴明が周囲から妬まれるのも無理はない。より高い地位を目指して、切磋琢磨する学生たちのシビアな闘いも見どころの一つだ。
本作は、陰陽寮の学生のなかでも成績優秀な得業生、橘泰家(村上虹郎)の殺人事件を巡るミステリー要素と、博雅の想い人である皇族の徽子女王(奈緒)を襲う怪奇現象の解決が同時進行するストーリー展開。後半、悪意の象徴としての攻撃的な荒々しさがある火龍と、守護獣としての穢れのない水の荘厳さを表現する水龍とが対決する呪術バトルのシーンは、ハイクオリティなVFXを駆使した映像の迫力が圧倒的。火と水の関係性もどこか陰陽五行説を彷彿とさせる。
平安時代に黄金期を迎えた陰陽師は、時代の変化と共に形を変え、やがて西洋文明を取り入れることに熱心だった明治政府によって1870年に廃止された。しかし、歴史の表舞台から姿を消したあとも、陰陽道的な思想や慣習は、日本のいたるところに残っている。人の心のなかの不安や恐怖に寄り添う陰陽師のような存在は、混沌の時代を生きる現代人こそ、密かに必要としているものなのかもしれない。
文/石塚圭子
※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記