藤井道人監督の作家性、恋愛映画の醍醐味、シュー・グァンハンの“素顔”…『青春18×2 君へと続く道』の魅力を徹底解説!
ナチュラルかつ魅力的に演じてみせた彼の俳優としての手腕に、驚かされずにいられなかった…シュー・グァンハンの演技力に注目(映画ライター・渡邊玲子)
幸運にも、筆者は本作で初めて、シュー・グァンハンの存在を知ることができた1人だが、人生につまずき、愁いのある顔を浮かべながらも、行く先々で心優しい人と束の間触れ合い、青春時代にサヨナラを告げる旅をする36歳のジミーと、バイト先のカラオケ店で、4つ年上の日本人女性アミに恋をし、忘れられないひと夏を送る18歳のジミーを、ここまでナチュラルかつ魅力的に演じてみせた彼の俳優としての手腕に、驚かされずにいられなかった。しかも、スケジュールの都合により、グァンハンにとっては“アウェイ”となる日本パートから撮影が開始されたにもかかわらず、膨大な日本語のセリフにのせて繊細な感情の動きを伴う芝居を、日本の俳優たちと交わすという、そんな難関さえも見事にクリアしているのだ。
映画のなかのジミーは、ヘアスタイルや服装も相まって、一見したらどこにでもいそうな等身大の青年のようにも映る。だが、それはあくまで彼がカメラの前でジミーという役柄を演じているからであって、先日、本作のプロモーションで来日したシュー・グァンハン自身から放たれるオーラは、紛れもなく“アジアのトップスターそのもの”と言えるものだった。そしてそのオーラは、いまをときめく人気アイドルが放つまばゆいほどの煌めきとは少し趣を異にするものであり、33歳という、グァンハンの実年齢よりもさらに落ち着きを感じさせる優雅で品のある佇まいと、彼自身の人としての懐の深さがもたらしていたようにも思う。
役をまとわず、“シュー・グァンハン”としてカメラマンの前に立ち、取材に応じる過程で浮き彫りになるのは、本人の人柄や人間性だ。ごくわずかな撮影時間のなかで、カメラマンが求めることを即座に理解して体現してみせる柔軟性と、自ら自由に動き始めた途端に立ち上ってきた色香に、アジア圏のスターとして君臨するグァンハンの真髄を見た気がした。
18歳のバックパッカー・幸次を演じた道枝駿佑とは、劇中同様、飯山線駅のホームで見送られて以来、1年ぶりの再会となったが、撮影時の苦労話を振り返るうちに時間が巻き戻り、互いの見た目こそ異なるものの、映画の続きのような温かい空気がその場を包み込んだ。ちなみに、取材中、机の上に置かれた記者たちの何台ものICレコーダーを、グァンハンみずからそっと掴んで動かし、道枝の発言が録音しやすいように、彼のほうに近づけてくれたことも、ここに書き添えておく。そんなさりげない心遣いのできるスターは、なかなかいない。
構成/編集部