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『マトリックス』『ハリー・ポッターと賢者の石』『ダンケルク』…日本の予告編キーマンが語る、予告編とハリウッド映画の変遷

インタビュー

『マトリックス』『ハリー・ポッターと賢者の石』『ダンケルク』…日本の予告編キーマンが語る、予告編とハリウッド映画の変遷

「世界最高の監督たちの撮った映画が、私にとっては“素材”。それを自由に料理できる、最高に贅沢な仕事」

そんな中村にもっとも大変だった仕事を尋ねると「うーん…。どの仕事も楽しかったので、苦労したという感じ、本当にないんですよ」と言いつつ、敢えて挙げてくれたのが『ハリー・ポッターと賢者の石』(01)だ。

【写真を見る】一番苦労したのは『ハリー・ポッターと賢者の石』!?ワーナー映画の予告編担当が明かした当時の秘話
【写真を見る】一番苦労したのは『ハリー・ポッターと賢者の石』!?ワーナー映画の予告編担当が明かした当時の秘話HARRY POTTER characters, names and related indicia are trademarks of and [c] Warner Bros. Entertainment Inc.Harry Potter Publishing Rights [c] J. K. Rowling. [c] 2001 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

「結果的に興収200億円を超えた超大作を、当時クリエイティブアシスタント(現在はアシスタントマネージャー)の遠藤(有樹)くんと私の、たった2人でやったからです。本当に残業ばかりだった!毎週、新しいTVスポットを流していましたからね。東京国際フォーラムで開催する初めての映画の試写作品が『ハリー・ポッター』になり、私たちは当日、押しかけるだろうファンの映像を撮ろうと待ち構えていました。ところが、撮影を始める5分くらい前に突然、腹痛が襲い、トイレに駆け込んだらそのまま倒れちゃったんです。そんな私を遠藤くんが病院まで運んでくれたのですが、なんと緊急手術になってしまって…。健康だけは自信があった私もさすがに驚き、遠藤くんもびっくりして、その時初めて2人して泣いちゃいました。手術するので泣いたわけじゃなく、病気に気づかないくらい忙しかったんだということで泣いちゃったんです」。

日本でも203億円の興行収入を記録し、大ヒットとなった『ハリー・ポッターと賢者の石』
日本でも203億円の興行収入を記録し、大ヒットとなった『ハリー・ポッターと賢者の石』HARRY POTTER characters, names and related indicia are trademarks of and [c] Warner Bros. Entertainment Inc.Harry Potter Publishing Rights [c] J. K. Rowling. [c] 2001 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ちなみに、この事件のせいでクリエイティブ部署に2名を投入することになったという。中村曰く「私が命を懸けて人員を増やしたんです!(笑)」。

では、もっとも楽しかった仕事はなんだろう?

キアヌ・リーヴス主演『マトリックス』は世界中で大ヒットを記録した
キアヌ・リーヴス主演『マトリックス』は世界中で大ヒットを記録した[c]1999 Village Roadshow Films (BVI) Limited.[c]1999 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

「やっぱり『マトリックス』ですね。この作品は映画を超えた映画。現実の世界をひっくり返すようなパワーがあって、観終わった特に『これってリアルな話なのでは?』なんて考える人が出てきても不思議じゃないと思いましたから。そんな作品にコピーライターさんが“なぜ 気づかない”という最高のコピーを考えてくれたので、その時にすでに『やった!』という確信を持ちました」。

『マトリックス』の日本での興収は87億円。中村の予想どおり、大ヒットして社会現象にまでなった。言うまでもなく、彼女の作った予告編は、その数字と現象に大きく貢献している。

「そんな作品の予告編を作るのは、本当にワクワクでした。“なぜ 気づかない”というコピーをとても小さいフォントにしようと思っていたのに、出来上がったのはちょっと大きい文字。私、作ってくれた(VFXスーパーバイザー・予告編ディレクターとして知られる)佐藤(敦紀)さんに食ってかかっちゃって。もう一つ、ケンカしたのがナレーションの言葉。『残念ながらマトリックスの秘密を語ることはできない。自分の目で確かめろ』というものなんですが、“語る”にするか“話す”にするかでも佐藤さんと大ゲンカ。いまは佐藤さんの“語る”にしてよかったと思っていますけど、当時は私も譲らなくて。佐藤さんとはホント、どれだけケンカしたかわからないくらいやりあいました(笑)」。

ウォシャウスキー姉妹が仮想現実空間を舞台に革新的な映像を作り上げた『マトリックス』
ウォシャウスキー姉妹が仮想現実空間を舞台に革新的な映像を作り上げた『マトリックス』[c]1999 Village Roadshow Films (BVI) Limited.[c]1999 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

『マトリックス』の予告編の最後に流れるシブいナレーションを担当したのは、俳優の遠藤憲一。当時映画の広告関連の仕事はしていなかった遠藤を、いち早く予告編のナレーションに起用したのだ。

「ケビン・コスナー主演の『メッセージ・イン・ア・ボトル』(99)の予告編ナレーションを頼む時、6 人の方の声のサンプルをいただいて、そのなかの一人が遠藤さんでした。低い声がとても印象に残っていたので、結果的に『マトリックス』でお願いしたんです」。


また、『マトリックス』には後日談もある。

「プロデューサーのジョエル・シルバーが来日した時、日本のTVスポットをとても気に入ってくれました。彼に『オレの作ったスポットを見てくれて』と言われて見たんですが、いいシーンを使いすぎていてスポットとしてはイマイチ。私は正直なので『すごい』なんておべんちゃらも言えず、笑ってごまかすと、『お前の作った予告編を全部見せろ』って。もしも気に入られて『アメリカに来い』とか言われたらイヤだなと思っていたら、なにもなくて安心しました(笑)」。

たくさんの思い出と予告編誕生秘話を語った中村
たくさんの思い出と予告編誕生秘話を語った中村

中村が「アメリカに行くのがイヤ」だったのは「日本のワーナーで仕事をしたかったから。だって、世界最高の監督たちの撮った映画が、私にとっては“素材”になり、しかもそれを自由に料理できる。最高に贅沢な仕事だと思いません?」。

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