「テレビが伝えてきた謝罪は、電波で増幅された“儀式”かもしれない」…「飯沼一家に謝罪します」大森時生&寺内康太郎が語るテーマ
2024年5月に放送・配信され、大きな反響を呼んだ「イシナガキクエを探しています」に続く、「TXQ FICTION」の第2弾「飯沼一家に謝罪します」が昨年末、12月23日〜26日の連日深夜2時より4日間にわたって放送され、現在Tverで配信中だ。
PRESS HORRORでは、大森時生、寺内康太郎、皆口大地、近藤亮太の4名が引き続き結集した制作チームにインタビューを敢行し、多くの謎を投げかけた作品の狙いや、“謝罪”というモチーフに込めた真意について尋ねた。
「イシナガキクエ」の放送直後に大森×近藤、寺内×皆口のインタビューを連続掲載したが、「飯沼一家」では組み合わせを新たに、ふたたび前後編としてお届けする。昨日掲載の前編に続き、後編ではテレビ東京で「テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?」「祓除」などのホラーモキュメンタリーを手掛け、24年は「行方不明展」などテレビの枠を越えた活躍も目立った大森プロデューサー、「フェイクドキュメンタリー『Q』」「祓除」「行方不明展」などで構成・演出を手掛け、『イシナガキクエ』に続きメイン演出を手掛けるこのジャンルの第一人者、寺内監督に話を聞いた。
「第2弾は、より物語として終われる形がいいという全員の共通認識がありました」(大森)
いまから20年前の深夜に放送され、ネット上で都市伝説と化しているテレビ番組「飯沼一家に謝罪します」。その番組内容は、飯沼家という家族の4人が亡くなった事件の原因が、民俗学者の矢代誠太郎が行った“儀式”が原因だったと、本人自ら謝罪する…という奇妙な内容だった。テレビ放送の枠を買い取って放送された本番組は、当初健康雑学を紹介する番組の予定だったが、スポンサーの意向を踏まえて内容が変わったのだという。ディレクターが当時の関係者を取材するなかで、思いもよらない事実が浮かび上がってくる。
――「TXQ FICTION」第1弾「イシナガキクエを探しています」は、ある種のムーブメントといえるほどの反響を獲得しましたね。
大森「そうですね。ありがたいことに僕らの想像を超える反響となりました。僕がいままで手掛けたもののなかで一番くらいに反応があったと思いますが、やっぱり“公開捜索番組”というフォーマットだったことがかなり大きいと思うんですよね。インタラクティブな感じもあるし、視聴者の方も知っているモチーフだし。でも、公開捜索番組という形式の功罪というか、非常にフォーマットが強くて、その型を少しでも崩すと破綻してしまう点も多かったんですよね。物語のためにこれを言いたいけれど、言ってしまったら公開捜索番組としてはありえなくなるから言えないというような。ですから物語上の余白が元々想定しているより大きくなった。ですから第2弾の打ち合わせを始めた時には、より物語として終われる形がいいという方向性が全員の共通認識としてありました」
寺内「『イシナガキクエ』というキーワードの方がはるかに有名になって、番組自体は知らない人がいるという状況ができていました。『イシナガキクエ』は我々が想像し得ないほどの評価を頂けたと思っていますが、それはある部分では“納得しない評価”というか。今回は、ちゃんと物語として整理して世に出そうという心境の変化はありました」
大森「派手なパンチというか、技という意味では、“行方不明者を探す、視聴者参加型の公開捜索番組”というフォーマットを越えられるものは、いまのところ私たちのなかでは出てきていないです」
寺内「視聴者を公開捜索に巻き込んで、電話番号を公開して情報を受け付けて…という、テレビというメディアを使って現状可能なことをやり切ったような気はします」
「『家族チャレンジ番組』のどこか不思議な世界観を、当時はそんなことを感じずに観ていた」(寺内)
――今回の、家族チャレンジ番組と謝罪番組を合わせた、入れ子構造のモキュメンタリーというアイデアはどういう流れで生まれたのでしょうか。
寺内「(『フェイクドキュメンタリー「Q」』を共に手掛けている)共同脚本の福井鶴から『家族チャレンジ番組』×『謝罪』をモキュメンタリーにする…というアイデアをもらった時は『無理だ』と思いました。当時の番組を再現するのは、労力や予算的に不可能だと思ったからです。でも『実現できたらおもしろい』と判断し、プロット化して『TXQ』の会議に持って行きました。家族チャレンジ番組って、どこか不思議な世界観じゃないですか。いまでこそ変だったなと思っていますが、あの手の番組が流行っていた当時はそんなことを微塵も感じずに観ていたので」
大森「僕は家族チャレンジ番組の全盛期世代ではないのですが、やはり子ども時代に観ていた記憶が漠然とありました。家の中でかくれんぼして隠れ切れたら100万円みたいな…。変な企画ですよね(笑)」
寺内「“放送枠を買い取った持ち込みのテレビ番組”というアイデアは、もともと大森さんも持っていましたが、『イシナガキクエ』にはそのモチーフまでは内包できなかったんです。で、今回改めて“放送枠を買い取った持ち込みのテレビ番組”というお題でプロットを5本書いたなかで、大森さんが一択でズバッと“これでしょう”と。『“謝罪”が一番いいと思います』と言って決まったんです」
大森「テレビの放送枠を買い取って謝罪をしている人、というのがすごく不気味だなって思いました。テレビで行われている謝罪は、とにかく業を感じるというか。実際に目にしてきたテレビ番組の謝罪も、尋常ではない雰囲気のものが多かったですし。その謝罪は、どういう気持ちが込められているのか、本当に自分の意思でやっているのか、みたいな感情が浮かび上がってきますよね。プロットを読んだ時に僕のなかで“謝罪”というキーワードが輝いて見えました(笑)」