Amazonが米最大手シネコンチェーンAMCを買収か…配信事業者が劇場を手にいれる勝算と可能性は?
アメリカの各都市で新型コロナウイルス感染を防ぐための外出禁止令が発令されてから、そろそろ2か月となる。その間映画館は閉鎖されたままで、春から初夏にかけて開催予定だった映画祭はすべて中止か延期、もしくはオンライン開催となっている。
アメリカの最大手映画館チェーン、AMCは多額の負債を抱えチャプター11(連邦破産法第11条、日本の民事再生法に相当)寸前かと言われていた。AMC幹部は、コロナ禍の中で新作映画の劇場配給を取りやめ、オンライン配信に踏み切ったユニバーサル映画に対し「今後AMC系列館ではユニバーサル映画を上映しない」と厳しい三行半をつきつけたのも記憶に新しい。
ところが、この週末にイギリスの大衆紙「The Mail」は、AmazonがAMC買収を検討しているのではないかというニュースを報じ、アメリカ時間の週明け月曜日にAMCの株価が38%近く上昇するという事象が起きた。AMCはアメリカ国内だけでなく、カナダ、イギリス、フランス、香港などに約1000館の映画館を所有する巨大チェーン。映画館が全て閉鎖した3月中旬に2万6000人の従業員を解雇、3月末にはCEOら経営陣も含む600人の全社員を一時解雇している。
映画やドラマの配信事業に力を入れるAmazonは、過去にも米ランドマーク・シネマズの買収を模索していた時期もある。ライバルのNetflixも劇場買収に意欲的で、2019年にはニューヨークのパリス・シアターと長期賃貸契約を結び、またロサンゼルスのエジプシャン・シアターの買収についても協議中と報道されている。2017年に米オーガニック系スーパーマーケットのWhole Foodsを買収したAmazonは、オンラインマーケットプレイスから、オフラインでも食料品・雑貨市場を支配するようになった。AMCを買収し、エンタメ業界でも同様の戦略を取るのだろうか?
ただし、マーケットアナリストのなかにはAmazonにとってAMCを含むハコモノ買収は必ずしも利点にならないという見方もある。現在、依然としてコロナ禍の収束は予想できない状況で、各都市が段階的に商業施設を再開していくなかで、劇場公開からオンラインでのVOD(ビデオ・オン・デマンド)配信への間隔も短縮化される可能性がある。配信事業者が映画を劇場公開する大きな理由のひとつに、アカデミー賞の候補資格取得があるが、2021年度の第93回アカデミー賞に限っては、劇場閉鎖中にオンライン配信された作品も候補資格を得る。また、昨年アマゾン・スタジオは米国内で、『ザ・レポート』(19)や『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』(19)といった作品を劇場公開から90日間以内にAmazon Prime Videoで配信すると発表。この判断に反発した劇場主は多く、結果的に上映劇場数は激減していた。
劇場側を敵に回してまで配信を早める判断を下したAmazonが、映画館を手に入れようとするだろうか?いろいろな憶測が飛び交っているが、AMCもAmazonもノーコメントのままだ。
文/編集部