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尾道・大林宣彦を訪ねる旅――『時をかける少女』『さびしんぼう』…いまも残る大林映画の“聖地”をめぐる

コラム

尾道・大林宣彦を訪ねる旅――『時をかける少女』『さびしんぼう』…いまも残る大林映画の“聖地”をめぐる

『ふたり』

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[c]ピーエスシー/NHKエンタ―プライズ

赤川次郎原作の同名小説を原作に、亡き姉の幽霊に見守られながら成長していく多感な少女の3年間を、映画初出演にして主演に抜擢された石田ひかりが好演した『ふたり』(91)は、「新・尾道三部作」の1作目だ。

夢見がちな14歳の実加(石田ひかり)と姉の千津子(中嶋朋子)は仲のいい姉妹だったが、ある朝、登校途中の千津子が、突然動きだしたトラックの下敷きになって死んでしまう。ある日、変質者に襲われかけた実加は千津子の幽霊に助けられる。その日以来、実加が難関にぶつかると、決まって千津子が現れるようになり…。

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側道から突っ込んできたトラックが民家の壁に激突し、千津子を挟み込む。本作を象徴する悲劇的なシーンだが、この側道、民家はともに撮影当時から実在している。
なかなか条件に合う場所がなく、かつ少女が圧死するシーンの撮影場所ということでロケーションの準備は難航を極めたが、ようやく見つけたのが、この立派な石垣をもつ民家だ。ここを撮影場所として提供してくれたのが、尾道の現地スタッフとして参加した吉田多美重さん。吉田さんは本作以降、制作進行や方言指導などで尾道での大林映画に携わっていくことになった。

本作を象徴する事故のシーンは、スタッフの家を使って撮影された
本作を象徴する事故のシーンは、スタッフの家を使って撮影された

実際に現地に立ってみると、道幅は非常に狭く、映画のなかの印象よりずっとコンパクトな場所であることがわかる。
実際の撮影では側道から大型トラックが入ってくるのが難しいことから、トラックは実際の4分の1程度の長さに切られたものが作られ、木材なども模型が使われているそうだ。

展望台への道は足元が悪いため、荒天時はお勧めできない
展望台への道は足元が悪いため、荒天時はお勧めできない

そこから足を伸ばして浄土寺の方に進んでいき、曲がりくねった山道をしばらく登っていくと、パッと視界が開け、実加がほのかな想いを抱く青年、智也(尾美としのり)との別れのシーンが撮影された不動岩展望台にたどり着く。

眺望良好な不動岩展望台
眺望良好な不動岩展望台

尾道水道を見渡せるこの展望台は、知る人ぞ知る尾道随一の絶景スポットで、その美しい眺めは『海辺の映画館』の劇中でも見ることが出来る。

『海辺の映画館-キネマの玉手箱』のルーツを探して、尾道へ
『海辺の映画館-キネマの玉手箱』のルーツを探して、尾道へ

『ふたり』の劇中では、手すりもない迫りでた巨石の上に2人が腰を下ろしてしゃべっているので、高所恐怖症の方ならずともヒヤリとさせられるが、現在は柵があり、安心して景色を楽しむことが出来る。

『ふたり』撮影当時は、展望台に手すりがなかった
『ふたり』撮影当時は、展望台に手すりがなかった[c]ピーエスシー/NHKエンタ―プライズ

ちなみに、不動岩という立派な名前の由来は、側面に不動明王像が彫られていることから来ているのだとか。

実加が通う学校のロケが行われたのは、監督の母校である土堂小学校。土堂小学校は『時をかける少女』の“土曜日の実験室”へ記者らを案内してくれた土井校長の前任校でもある。

大林監督の母校である土堂小学校
大林監督の母校である土堂小学校

土井校長によれば、土堂小学校では、児童らが『ふたり』を鑑賞し、ロケ地やゆかりの場所に取材をすることで自分たちの街への理解を深めるという、“映画でふるさとを発見する”教育が行われてきたそうだ。2007年の発表会には大林監督本人も駆けつけ、児童からの鋭い質問に一つ一つ丁寧に答えてくれたのだという。
こうして大林監督の古里への想いに触れた児童らは、きっと、次の世代にもその想いを受け継いでいってくれることだろう。

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[c]ピーエスシー/NHKエンタ―プライズ
写真/黒羽 政士



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