『グリーンランド』でエモさ全開!“頼れる男”ジェラルド・バトラーの激闘列伝
この人の近くにいれば、世界規模の危機に襲われても、最後は命が助かるのではないか…。そんな錯覚をおぼえてしまう俳優がいる。ジェラルド・バトラーだ。スーパーヒーロー役というわけではない。無骨で、時に強引で、すべてを投げ打ってでも大切な人を守る意思が全身にみなぎっている。そんな役に、いま世界中で最も似合うスターが、彼ではないだろうか。
最新作『グリーンランド-地球最後の2日間-』でジェラルド・バトラーを襲うのは、世界に降り注ぐ彗星の隕石!生き残るための猶予は、わずか48時間とあって、前人未到のサバイバルが展開していくのだが、バトラーが主人公を演じることで、最後はどうにかして危機を乗り越えるという「希望」が見えてくるから不思議だ。
こうした希望が生まれるのは、アクション映画ファンにとって数年前の記憶が鮮やかに蘇るからだろう。2017年(日本公開は2018年)の『ジオストーム』で、やはりジェラルド・バトラーは世界規模の大災害に立ち向かった。地球の天気をコントロールする人工衛星が暴走し、各地に竜巻や津波、気温低下など異常気象が発生。このままでは人類の存亡にかかわるというディザスター映画で、バトラーは人工衛星システムの開発者として奔走する。地球の運命を一手に担う役を熱演していた。今回の『グリーンランド』とは、もちろん役柄も設定も無関係だが、われわれ観客は、演じた俳優と地球規模災害という共通設定で、脳内がリンクしてしまう。それも映画の楽しみだと、バトラーが教えてくれているようだ。さらに2018年(日本公開は2019年)の『ハンターキラー 潜航せよ』では、第3次世界大戦の勃発を、アメリカ軍の潜水艦艦長として阻止。人類の未来を託される、唯一無二のアクションスターの地位をバトラーは強固にしていた。
そしてジェラルド・バトラーの当たり役といえば、2013年にスタートした『エンド・オブ〜』シリーズが記憶に新しい。シークレットサービスとしてアメリカ大統領を警護する、マイク・バニング役。1作目の『エンド・オブ・ホワイトハウス』では、テロリストに占拠されたホワイトハウスに単身、潜入して大統領を救出しようとした。続く『エンド・オブ・キングダム』(16)では舞台をロンドンに移し、100人以上のテロリスト集団からアメリカ大統領を守った。さらに3作目の『エンド・オブ・ステイツ』(19)では、大統領暗殺未遂の容疑者にされながら、巨大な陰謀と対峙。どれも失敗すれば世界的クライシスを迎えたわけで、バトラーが体現する究極の判断と行動力に、われわれ観客も「この人しかいない!」と納得させられたのである。
そもそも元をたどれば、初期の代表作のひとつ『300<スリー・ハンドレッド>』(07)で、ギリシャ時代のスパルタ王のレオニダス役として屈強な戦士たちを率い、自らも筋骨隆々の肉体を誇示して大暴れした姿が、バトラーのアクションスターとしての原点だった。全身全霊で周囲の者を奮い立たせる勇姿のイメージが、『グリーンランド』まで続いているのである。素顔のバトラーも、正義感の強い人。取材時にこんなことがあった。取材部屋の隅で小声で話をしていた関係者に、彼はいきなり「僕はインタビューに集中して答えたい。余計な話をしている人は、部屋から出て行ってくれないか!」と一喝。仕事にまっすぐに取り組もうとするバトラーの誠実さを感じさせるエピソードとなった。
ただ、この最新作『グリーンランド』は地球規模の災害を描きつつ、バトラーが演じるジョンは「救世主」という役割ではない。あくまでも自分の妻と息子を守るのが、彼の使命だ。息子のネイサンがインシュリン投与を必要とする糖尿病を抱えていることもあって、次から次へと一家に試練が訪れる。これまでバトラーが挑んだ危機に比べ、最も一般レベルで感情移入しやすい展開になっているのが『グリーンランド』の魅力である。
思えばバトラーは、『マーヴェリックス/波に魅せられた男たち』(12)や『ファミリー・マン ある父の決断』(16)といったヒューマンドラマの佳作でも、父として、あるいは人生の師としての役割を見事に果たし、リアルな日常で「頼れる人」を演じてきた。その意味でも『グリーンランド』は、ジェラルド・バトラーの持ち味が最大限に発揮された一作なのである。
文/斉藤博昭