石井裕也作品にとって池松壮亮の存在とは?『ぼくたちの家族』から『アジアの天使』へと続くタッグを振り返る

コラム

石井裕也作品にとって池松壮亮の存在とは?『ぼくたちの家族』から『アジアの天使』へと続くタッグを振り返る

母親の病気に揺れる次男坊を演じた『ぼくたちの家族』

石井監督は1983年生まれの現在37歳で、池松は1990年生まれの30歳。7歳の年齢差はあるものの、同じ時代でなにかと闘っている2人はたぶん直感的に相手から自分と同じ匂いを嗅ぎ取り、お互いにシンパシーを感じたのだろう。特に石井監督にとっての池松は、ある時は自らの分身であり、ある時は理解者、そしてある時は右腕であり、またある時は共犯者。いずれにしても、新たなる挑戦をする時には池松を必ず重要なポジションにキャスティングする。そして、その強い絆が個々の作品の力強さを生み、輝きや魅力を間違いなく増幅させている。

例えば『ぼくたちの家族』。母親(原田美枝子)の病気をきっかけに、様々な問題を抱えた家族が一つになっていく本作では、池松は妻夫木聡が演じた長男の浩介とは対照的な、どこか呑気ないまどきの次男、俊平を飄々と演じていて、劇中の兄をイラつかせる。けれど、その楽天的なスタンスこそ次男の在り様だし、池松の芝居が伝える父(長塚京三)や兄との距離感に彼のやさしさが滲み出ていて、俊介が自分の弱さを告白するシーンの池松はとりわけ最高の弟だった。聞けば、石井監督は次男坊らしいから、池松は監督の普段の言動からなにかヒントを掴んだのかも。だが、石井監督からしてみれば、池松は苦悩する自分を受け止めてくれる弟のような存在だったに違いない。

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池松の鉄壁の守備に期待した石井監督の想いが見える『バンクーバーの朝日』

続く『バンクーバーの朝日』では、そんな池松の役割がもっとはっきりしていた。本作は、戦前のカナダはバンクーバーに実在した日系移民の野球チームの実話を映画化した、石井監督のフィルモグラフィーの中では最もバジェットの大きい作品。しかも、実寸大の野球場とそこに隣接する当時のバンクーバーの街のオープンセットを栃木県足利市に建造して撮影した群像劇だから、石井監督も自身の手に負えない状況になることは予想していたはずだ。

2人の最初のタッグは、2012年にWOWOWのドラマWで放送された「エンドロール~伝説の父~」。この作品で父の7回忌のために帰郷する大学生を演じた池松は、『ぼくたちの家族』(14)、『バンクーバーの朝日』(14)、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17)、『町田くんの世界』(19)、そして『アジアの天使』と、実に6作もの石井裕也作品に出演している。それだけでも石井監督が池松に全幅の信頼を寄せていることが分かるが、池松が今回、共同制作である韓国サイドとの折り合いがなかなかつかず、実際にクランクインするまでに3年の歳月が流れ、さらに韓国俳優のスケジュールの都合で3か月も撮影が延びたというのに監督のもとから離れなかったのを見れば、彼が石井監督の才能や映画に対する姿勢を心から支持しているのは明白だ。

もちろん、それだけがキャスティングの理由ではないだろうが、その大がかりな撮影を乗り切るためには、主演の妻夫木聡と前作『ぼくたちの家族』で親交を深め、自分(石井監督)のこともよく分かっている池松が必要不可欠だったに違いない。野球経験者の彼が野球をあまりやってこなかった妻夫木をはじめ、“バンクーバーの朝日”チームをうまくまとめてくれると踏んだはずだし、池松の方も自分に託された使命を瞬時に察知しただろう。池松の演じたフランクがサードのポジションというあたりからも、鉄壁の守備を期待した石井監督の想いがじんわり伝わってきた。

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