『バッテリー』から『恋する寄生虫』に至るまで…幅広い演技で魅了し続ける林遣都のキャリアを振り返る!
ラブコメで炸裂させた絶妙なツンデレ『劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』(19)『にがくてあまい』(16)
近年の作品で外せないのが、男性同士の恋愛関係を描き、映画化もされた「おっさんずラブ」シリーズ。本作で林が演じたのは、田中圭演じる“はるたん”こと春田に想いを寄せるエリートイケメンの牧凌太。顔も性格もよく、家事や料理などもこなす彼だが、吉田鋼太郎演じる黒澤が春田に猛アプローチをかけるのを見て、たまらず壁ドンからの濃厚キスをお見舞い…、そんな感情的な一面も持つという、林の持ち味“人間味”が抜群に生かされたキャラクターだった。一見、クールに見える牧が、春田のこととなるとヤキモキしてしまうツンデレな姿は多くの女性の共感を呼んだ。
同じくツンデレキャラを演じた『にがくてあまい』は、ひょんなことから同居生活をすることになった野菜嫌いのキャリアウーマンと、対照的にベジタリアンであるゲイ男性の奇妙な友情を描いた物語。林演じる渚が、川口春奈演じるマキとケンカしながらも、帰宅した彼女に温かいごはんを振る舞う優しさに胸キュンした人も多いだろう。また、高校の美術教師である渚が、片想いしている新田真剣佑(公開当時は真剣佑でクレジット)演じる体育教師と野菜畑で野菜を穫りながら会話を交わすシーンにはアドリブも多かったそうで、林の自然な振舞いから生まれるアドリブに、当時まだデビュー間もない新田が見事に対応。様々な俳優がいるが、林の場合は、役への姿勢や集中力で自然と周囲をも巻き込み、相乗効果を生むタイプであると思われる。
“犬”にも“おひとりさま”にも(?)好かれる人懐こさ『犬部!』(21)『私をくいとめて』(20)
また、周囲から“犬バカ”と称される、大の動物好きの熱血主人公、花井颯太に扮した『犬部!』。動物のために生きていると言っても過言ではないほど動物たちを愛し、愛される変わり者の花井を演じ、現場では林が積極的にコミュニケーションを重ねていったことで、“共演者”である犬たちの表情も明るくなっていったという。林の演技への熱意は、人だけでなく動物たちの心までも動かす力を持つのだろう。
そして、第33回東京国際映画祭で観客賞を受賞した『私をくいとめて』も欠かせない。のん扮するおひとりさま生活の長い恋に奥手な女性と、近所に住む年下男子が織りなす不器用な恋模様。相手を思いやる繊細な者同士だからこそ生まれる、近づきすぎない2人の遠慮がちな距離感が歯がゆいほどじれったく、観る者の心を揺さぶった。上述の受賞も深くうなずける、現代的なラブストーリーに仕上がっていた。
“虫”による“恋”に翻弄される男の苦悩を体現した『恋する寄生虫』(公開中)
そして最新作となる『恋する寄生虫』は、極度の潔癖症の高坂賢吾と視線恐怖症で不登校の女子高生、佐薙ひじり(小松菜奈)という孤独な2人が織りなす切ないラブストーリーだ。潔癖すぎるがために、人との関わりを避けてしまう高坂の聖域を大胆に侵してゆく佐薙。いやいやながら彼女に翻弄されるうちに、魅了されていく高坂の動揺があまりにも説得力のある演技だからこそ、運命的な2人の恋を応援してしまう。きっと林でなければ、他者との接触にここまで怯える高坂に感情移入することはなかっただろう。
小手先の技術でなく、役の人生を全身全霊で生き抜く林遣都。スポコンでも、ラブストーリーでも、彼の作品を観ると、「こんな人、いるな」「この人、幸せになってほしいな」といつも思ってしまう。どんな特異なキャラクターも彼が演じることで、生きている人間らしくきらきらと輝く。今後の彼の新たな挑戦が楽しみで仕方ない。
文/高山亜紀