『家族ゲーム』『失楽園』…生誕70周年&没後10年のいまだから観たい映画監督・森田芳光の軌跡を振り返る
“魅せる”映画監督としての真価を発揮した1990年代
自主映画出身監督と聞けば、大林宣彦監督のように既存の映画の枠にとらわれない大胆な発想やオリジナリティにあふれる表現を駆使した強烈な作家性の持ち主をイメージする人も少なくないだろう。しかし森田監督の場合、たしかに映像表現の点ではほかの監督にはないユニークさを持ち合わせている反面、意外なことにフィルモグラフィの大部分をオリジナル作品ではなく原作のある作品が占めている。
先に挙げた『家族ゲーム』以降の3作もしかり、夏目漱石の小説を映画化した『それから』(85)、吉本ばなな原作の『キッチン』(89)。さらに藤子・F・不二雄の漫画を女性主人公に置き換えて描いた『未来の想い出 Last Christmas』(92)など。森田監督自ら脚本を担当した作品も数多くあるが、その本質はストーリーテラーではなく、いかに優れた物語をより一層魅力的な映像へと置き換えるのか、つまり“見せる=魅せる”ことを追求した正真正銘の映画監督ではないだろうか。
そういった意味では、90年代前半の数年のブランクを経て1996年に発表した『(ハル)』は少々イレギュラーな作品という印象を受ける。オリジナル作品であることはもちろん、パソコン通信を通じて男女の恋愛が育まれていくという、いまとなっては当たり前に見えるオンライン上での関係を描く先見性。画面の魅せ方以上にそのストーリーテリングの巧みさが目を引く作品となっており、森田監督の新境地を存分に堪能することができよう。
そして1997年に、渡辺淳一の同名ベストセラーを映画化した『失楽園』(97)で空前の社会現象を巻き起こすこととなる。いわゆるダブル不倫に溺れる男女の悲劇を役所広司と黒木瞳を配して描きだし、配給収入23億円(興行収入では約40億円)の大ヒットを記録。さらにその年の「新語・流行語大賞」に選ばれるのである。そこで改めて、原作もの、特にそのビジュアルがあらかじめ視覚化されていない小説を映画化したときに、その真価を発揮する監督であると証明する。
1999年に貴志祐介の同名ホラー小説を映画化した『黒い家』は、そのセンスが特に活かされた一本ではなかっただろうか。内野聖陽演じる保険会社のサラリーマンが、大竹しのぶと西村雅彦が演じる保険金詐欺夫婦に追い詰められていくサイコホラーであり、当時空前のブームだった“Jホラー”とはまったく異なるベクトルの恐怖を観客に植え付けた。自ら指を噛み切る西村雅彦、終盤の階段シーンで完全にモンスターと化す大竹しのぶ。空気感ではなく直接的に人間の恐ろしさを見せる悪夢的なビジュアルは、まさに森田監督ならでは。
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