『家族ゲーム』『失楽園』…生誕70周年&没後10年のいまだから観たい映画監督・森田芳光の軌跡を振り返る
初時代劇から趣味全開の遺作へ…幅広いジャンルに挑んだ2000年代
宮部みゆきの大ベストセラーを大胆な脚色で映画化した中居正広主演の『模倣犯』(02)に、向田邦子の名作ドラマを歴代森田作品の女優たちで映画化した『阿修羅のごとく』(03)。『失楽園』を彷彿とさせる大人のラブロマンス『海猫』(04)に、江國香織原作の『間宮兄弟』(06)。2000年代の森田作品は、これまで通り原作ものに挑みながら、より幅広いジャンルへと広がりを見せる。
2007年には自身初の時代劇として黒澤明監督の名作をリメイクした『椿三十郎』を発表。オリジナルの脚本をそのまま再映画化するというチャレンジが話題を集めた同作。パンフレットに掲載されたインタビューで森田監督は「初めてのジャンルはチャレンジできて大好き。そのジャンルでこれまでやらなかったことを持ち込めますから」と、映画監督として常に新しいものを目指していく心意気を語っていた。
同作の前には直木賞作家である奥田英朗の小説を映画化した『サウスバウンド』(07)も手掛けている。豊川悦司演じる主人公が突然沖縄の西表島への移住を宣言し家族や周囲の人々を振り回していくコメディ作品で、のどかな西表島のロケーションとキャスト陣のコミカルな掛け合いの数々が絶妙な化学反応を起こしてクセになる一本だ。豊川は同作と『椿三十郎』でまるっきり対照的な表情を見せ、地元の警官を演じた松山ケンイチは『椿三十郎』では若い侍役に。2人の演技を比較するために両作品を見比べてみるのも一興であろう。
松山はその後、監督の遺作となった『僕達急行 A列車で行こう』で瑛太と共に主演を務めており、晩年の森田作品には欠かせない俳優の一人であった。多くの原作ものを手掛けてきた森田監督が、最後の最後に撮りあげたのが30年以上あたためてきたオリジナル企画であり、しかもそれが鉄道ファンであった自身の趣味全開の作品だったというのは、映画監督冥利に尽きるのではないかと思える。それでももちろん複数の作品をリアルタイムで観ていた観客として、もっと多くの作品を観たかったという名残惜しさを感じずにはいられない。
今回は生誕70周年記念の企画となったわけだが、今後も森田監督作品が上映される機会は何度も訪れることだろう。そのたびに新しい世代に、“映画”にこだわり続けた森田監督の独特な作家性が伝えられていけばと願うばかり。ちなみに『メイン・テーマ』と『失楽園』、『黒い家』、『サウスバウンド』の4作品は、現在Apple TVアプリの「MOVIE WALKER FAVORITE」チャンネルでも配信されており、手軽に視聴することができる。まだ森田作品に触れたことがない人も、久しぶりに観たいと思った人も、この機会に改めて映画監督・森田芳光が遺した傑作たちを楽しんでみてはいかがだろうか。
文/久保田 和馬
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