松坂桃李の“瞳”の演技になにを思う…『流浪の月』や、先鋭化したサム・ライミ的映像が楽しめる『ドクター・ストレンジ/MoM』など今週観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、“マルチバース”の扉が開いたことで巻き起こる危機にヒーローたちが立ち向かうMCU最新作、重厚なストーリーに定評がある李相日が広瀬すず×松坂桃李共演で描くドラマ、アニメ界の気鋭クリエイターたちが集結して描く現代版「人魚姫」の、心を掴まれる3本!
いまの社会の危険で嘆かわしい現実を炙りだしていく…『流浪の月』(公開中)
2020年の本屋大賞を受賞した凪良ゆうのベストセラー小説を、『悪人』(10)、『怒り』(16)などの李相日監督が若手実力派キャストの共演で映画化した問題作。女児誘拐事件の「誘拐犯」と「被害女児」という烙印を押された佐伯文と家内更紗。彼らが15年ぶりに再会するところから物語が大きく動きだす本作は、俳優陣の繊細な芝居がなんでもひとつの型は当てはめて裁く、いまの社会の危険で嘆かわしい現実を炙りだしていく。幼い子どもを狙った誘拐事件は実際に後を絶たず、親が子どもを見知らぬ大人から遠ざけるのは当然と言えば当然だ。けれど、歳が大きく離れていても、お互いを必要とする、かけがえのない関係の男女だっているかもしれない。そんな、二人しか分からない心の機微と大切な時間を、更紗役の広瀬すずと文役の松坂桃李が生々しく体現。更紗と文の恋人役に扮した横浜流星、多部未華子が、固定観念に縛られ、更紗たちの関係を理解できない多くの現代人を象徴するキャラを痛く、切実な芝居で伝えているのも見逃せない。そして圧巻は、松坂が瞳孔が異常に大きく見える歪んだ表情で、自分でもどうすることもできない複雑で狂おしい生理を吐露するクライマックスだ。このシーンを観て、なにを思うのか?その解釈によって、本作の見え方は大きく変わってくる。(ライター・イソガイマサト)
多次元宇宙で繰り広げられる想像を超えた戦い…『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(公開中)
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の最新作にして、『ドクター・ストレンジ』(17)の5年ぶりの続編。マルチバース(=多次元世界)を渡り歩く能力を持つ少女アメリカ・チャベス(ソーチー・ゴメス)は、その能力を狙われ、逃れるように現代世界へと辿り着く。追って来た怪物に襲われる彼女の危機を救ったのは、アベンジャーズとして活躍した魔術師ドクター・ストレンジ(ベネティクト・カンバーバッチ)だった。カオスマジックの使い手となったワンダ・マキシモフとも協力しながら、多次元宇宙を行き来する戦いに挑んでいく。監督は、トビー・マグワイア主演の「スパイダーマン」3部作を手掛けたサム・ライミ。ヒーロー映画の醍醐味であるバトルやアクションの見せ方はもちろん、様々なイメージで描かれる多次元宇宙を渡り歩く映像表現、そして得意とするホラー映画的なカメラワークや演出も冴え渡り、より先鋭化したサム・ライミ的映像が楽しめる1本となっている。また、多次元宇宙に存在する、ほかの自分自身と向き合うことで、精神的にも成長するストレンジのドラマにも注目だ。(ライター・石井誠)
降り注いだ泡が虹色に輝く景色は息を呑むほどに美しい…『バブル』(公開中)
『進撃の巨人』シリーズの荒木哲郎監督、制作はWIT STUDIO、脚本を虚淵玄が手掛け、小畑健がキャラクターデザインを担当し、音楽は澤野弘之という超豪華布陣が贈る長編アニメーション。パルクールアスリートZEN監修のバトルシーンは、泡から泡へ飛び移るプレイヤーたちにハラハラし、自分も一緒にゲームをプレイしているような感覚が味わえる。見たことのある風景の廃墟化は胸に迫るものがあるが、降り注いだ泡が虹色に輝く景色は息を呑むほどに美しい。アンデルセン童話「人魚姫」モチーフの物語はせつなくも爽やかさが残るストーリーに。包み込む優しさ、苦しめる怖さ、輝く美しさに弾けるせつなさ。美術、アクション、ストーリーすべてで“泡”の表現力が堪能できる。(ライター・タナカシノブ)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!
構成/サンクレイオ翼