『人と仕事』『パンケーキを毒見する』が浮き彫りにする日本社会の現実…スターサンズ作品の精神に迫る
“人々”をリアルに描き、ダイレクトに“伝える”
“社会”というテーマは、一見すると非常に大きくてぼんやりとしたものに見える。しかしその“社会”を構成しているのは“人”にほかならない。これまでスターサンズの作品を振り返ってみれば、社会に斬り込む作品を描くにあたって、“人”というものをいかに生々しく描写するかに重きを置いた作品が多くを占めている。
菅田将暉が国内の映画賞を総なめにし、一躍スターサンズの名を世に知らしめた『あゝ、荒野』(17)では、半世紀以上前に執筆された寺山修司の小説を現代に訴えかけるテーマ性を織り交ぜて再構築し、新宿でもがき苦しみながら生きる2人の青年の姿を描く。また池松壮亮が主演を務めた『宮本から君へ』(19)では社会に迎合することなく愛のために奮起する男の姿を、『ヤクザと家族 The Family』(21)では時間経過と共に移り変わる社会のなかで、孤独な男を取り巻く“家族”というものを再定義する。
いずれの作品も刺激的な描写を厭わず、ある意味では古風にも思える硬派なテイストのもとで、“社会のなかで生きる人々”という普遍的なファクターをこのうえなく生々しく見せていく。難解で複雑なアプローチでは伝えるべきものを伝えることはできないと言わんばかりに、ダイレクトに訴えかけるからこそ映画がいきいきとしたものへと昇華される。それこそがスターサンズの劇映画作品の醍醐味といえよう。
そのスタンスは、ドキュメンタリー映画においても守り抜かれている。ブレることなくひたすら“人”にフォーカスを当て続ける『人と仕事』では、街でたむろする若者から夜の街で働く人々、身寄りのないホームレス、児童相談所で暮らす未来ある少年少女たちのありのままの苦悩と葛藤の言葉が次から次へと聞こえてくる。そしてそれを観客に共有したり、レポーターである有村と志尊を通してワンクッション隔てて伝えたりと、いかにして“声なき声”をひとつの形ある“声”にしていくかという試行錯誤が重ねられていくのだ。
『パンケーキを毒見する』の場合は総理大臣という極めて特殊な立場にある人物にフォーカスを当てる以上、一見するととっつきづらい政治ドキュメンタリーに思われてしまうことは致し方あるまい。それでも作中には風刺的なアニメーションを織り交ぜるなど、複雑化された問題を噛み砕きながら、観客が理解しやすいように見せるアイデアが散りばめられている。
他人事としてただ眺めるのではなく、画面のなかで起きている出来事を自分事として受け止めてもらう。映画は人を描き、人へ伝えるもの。そんな作り手の“伝える”ことへの想いが、たしかに表れているといえよう。
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■『パンケーキを毒見する』
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