『人と仕事』『パンケーキを毒見する』が浮き彫りにする日本社会の現実…スターサンズ作品の精神に迫る
この“社会”に生きる 我々が“いま”必要な問題提起
スターサンズ作品が名実共に“社会”を描く映画会社として知れ渡るきっかけになったのは、やはり第43回日本アカデミー賞で最優秀作品賞に輝いた『新聞記者』(19)であろう。権力によって操作されるメディア、個人の信念の前に立ちはだかる強大な組織。現実の社会に確かに蔓延る不条理に、フィクションとしての立場から徹底抗戦する渾身の一本だ。
作品を観終わったあとに抱く、「おもしろかった」や「つまらなかった」というシンプルな感想を抜きにして、そこに描かれていたテーマについて考えをめぐらす。適切な答えを見出すことができなくとも、なにが問題として存在し自分はそれにどう向き合っていくのかをじっくり考える機会を観客に与え続ける。そうした社会派映画のあるべき姿は、一過性の娯楽とタイムパフォーマンスが求められるような現代のエンタメ界の流れと逆行するものではあるが、確実に必要なものではないだろうか。
実際に起きた事件から着想を得て、息子に執着し殺人事件を教唆する母親の狂気を長澤まさみ主演で描きだした衝撃作『MOTHER マザー』(20)。ある万引き未遂事件を発端に、それに関わる人々の群像を、“正義中毒”など近年社会問題と化している要素を交えて描いた『空白』(21)と、いわゆる“社会派映画”のジャンルに含まれない作品においても、現代社会の関わる闇の部分をえぐり取り、観客に問題提起するように強烈に描いていく。
ドキュメンタリー映画では劇映画以上にストレートに問題提起を投げかけることができる。『人と仕事』でさらけ出されるのは、コロナ禍という未知なことが多く答えが見つからない投げかけではない。コロナ禍はひとつのきっかけに過ぎず、それによって露呈した日本の福祉制度の脆弱さに他ならない。「自助・共助・公助」という言葉ではぐらかされ、本来なくてはならないものが失われた光景を目の当たりにし、画面に映る人々が発する言葉、彼らが置かれた境遇への共感以上に、そこに映らない人々への疑問を抱くことになるだろう。
そして『パンケーキを毒見する』においては、わずか1年あまりで終わった菅政権下に起きた学術会議の任命拒否問題や官房機密費の問題、国会論戦の支離滅裂さに言論統制とも取れる圧力など、日本の政治にまつわる“おかしな部分”を次々とあぶり出していく。なんとも皮肉なことに、これらの問題の多くがまだ解決せずに有耶無耶となっているのだから、日本で生きる誰にとっても決して無視できないものだ。
2022年も中盤に差し掛かり、コロナ禍からの新たなスタートを切った現在。いまだ多くが闇に埋もれたままの日本社会の膿を、映画を通して知り、受け止め、そして考える。エンタテインメントとジャーナリズムの両面を有したスターサンズの映画は、我々自身の手で未来を変えていく後押しとなってくれるはずだ。
文/久保田 和馬
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販売元: 株式会社KADOKAWA
■『パンケーキを毒見する』
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