阿部サダヲの凄みに迫る!ハイテンション芸、ヤサ男、闇を抱える殺人犯…『アイ・アム まきもと』へと続く“振り幅”
礼儀正しいなかにも毒気を感じさせ、捉えどころのない飄々とした態度が独特の魅力を醸しだしている個性派俳優の阿部サダヲ。演じる役柄もまたジャンルレスで、ハイテンションからシリアスまで演技の“振り幅”は驚くほど大きい。最新作『アイ・アム まきもと』(9月30日公開)では、市民福祉局の職員の牧本に扮している。場の空気を読まずに自分のルールに従って行動するちょっぴり迷惑な男だが、その優しい心根に少しずつ感化されてしまう。そんな不思議な魅力を持った牧本は、まさに阿部の持ち味が詰まった役柄と言えるだろう。
『アイ・アム・まきもと』は、『舞妓Haaaan!!!』(07)、『なくもんか』(09)、『謝罪の王様』(13)に続いて、阿部と水田伸生監督の4度目のタッグ。第70回ヴェネチア国際映画祭でオリゾンティ部門監督賞を含む4つの賞を受賞した、ウベルト・パゾリーニ監督&脚本による『おみおくりの作法』(15)をベースに、劇作家&演出家の倉持裕の脚本により、笑って泣ける感動作へと生まれ変わった。そこで今回は、作品の世界観を余すことなく表現しつくした阿部の卓越した演技力と振り幅に迫ってみたい。
阿部サダヲと言えば…『舞妓Haaaan!!!』に代表されるハイテンション芸!
松尾スズキが主宰し、宮藤官九郎も参加する「大人計画」に所属する阿部は、舞台、テレビ、映画で俳優として活動するかたわら、「大人計画」内のパンクコントバンド「グループ魂」でボーカル“破壊”を務めている。
なにかと阿部に笑いの要素を求めてしまうのは、劇団での活動イメージによるものと思われるが、映画初主演作となった『舞妓Haaaan!!!』の影響も大きい。宮藤が脚本を手掛けた本作は、舞妓さんを一途に愛する男の奔走を追ったハイテンション・コメディだ。“京都祇園の舞妓さんと野球拳をする”という夢を持つサラリーマンの鬼塚公彦に扮した阿部は、夢の実現へ向けて突き進んでいくハイテンションの演技が高く評価され、第31回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞した。
水田監督のタッグ3作目『謝罪の王様』では、謝罪でトラブルを解決する東京謝罪センター所長の黒島譲役を体現。この作品で「謝罪師」として国家間の紛争解決を託されるキーマンを怪演した。岡田准一らと共演した「木更津キャッツアイ」シリーズでは、主人公の“ぶっさん”こと田渕公平(岡田)らが所属する草野球チームのキャプテンでありパシリのウザ男である猫田カヲルにも扮しており、その熱量の高さからハイテンション・コメディ俳優という独自路線を構築することとなった。