【連載】「MINAMOの話をきいてミナモ?」 第8回 元汚部屋住人の三度の気づき

コラム

【連載】「MINAMOの話をきいてミナモ?」 第8回 元汚部屋住人の三度の気づき

MINAMOが敬愛するジム・ジャームッシュ監督作『パターソン』
MINAMOが敬愛するジム・ジャームッシュ監督作『パターソン』[c]Bleecker Street Media /Courtesy Everett Collection / AFLO

次に気づきを与えてくれたのは、私が心酔するジム・ジャームッシュ監督の映画『パターソン』(16)。バス運転手のパターソンが送る七日間がただ淡々と流れるこの映画は、文字どおりただ一人の男の日常を同じ視点で、7回観るだけの作品である。三度目の正直。私はまたまたハッとしたのだ。同じ調子で繰り返されるパターソンの毎日だが、小さなことから大きなことまで彼が何に幸せを感じているのかが、見て取れる。変わり映えしない日常であったとしても、視点が変わるとこんなにも世界は美しいのだと考えさせられる。このように、この映画からはたくさんのことを教えてもらった。

日常の小さなことが幸せと思えるようになった今の私の生活は、質の良い暮らし進行形

「日常の小さなことが幸せと思えるようになった」と語る
「日常の小さなことが幸せと思えるようになった」と語る撮影/SAEKA SHIMADA ヘアメイク/上野知香

いつのまにか汚部屋を脱出した私は、毎朝3つの大きなおむすびと昆布、梅干し、海苔を代わる代わる食べ比べし、味噌汁をすする。たまに朝9時に開店したばかりのパン屋に行き、焼きたてのクロワッサンを持ち帰る。キャンドルに火を灯し、大好きな小説の世界に入る。カーテンを開ければすぐに感じられる四季と、物は多いかもしれないが、大好きな人たちとの思い出と、愛してやまない数々のアーティストがこの世に生み落とした素晴らしいモノや音に囲まれて生きる毎日は幸せ以外のなにものでも無い。

そんな日常の小さなことが幸せと思えるようになった今の私の生活は、質の良い暮らし進行形と言えるであろう。何をし、どこへ行けば自分が幸せかを知ることができた。さらにそれが今の自分にとってベターであることが大事なんじゃないかと思う。そう思えるようになったのは、私の心が少しばかり成長して部屋の片付けだけでなく、頭の中が整理できるようになったからかもしれない。

皆、毎日を必死に生きているのだ。他人が聞いたらくだらないと笑われるような悩みにも、頭を抱えるほど悩んでいる。世界で一番不幸だと思う瞬間もある。何のために生きているのかすら分からなくなることもある。けれど、お金がなくても、友達がいなくても、大切な人と別れても、将来の夢がなくても、何も無くても大丈夫なのだ。自分が生きてさえいれば。気が向けばQOLでも上げるか、くらいでいい。

真心ブラザーズの「のりこえるの歌」を聴きながら、最近ちょっとばかり忙しい私は味噌汁をほっこりとすすりながら、汚部屋の景色を時々思い出している。

■MINAMO プロフィール
京都府出身。2021年6月にSOFT ON DEMANDよりAV女優としてデビュー。趣味は映画&レコード鑑賞、読書。
YouTubeにて「MINAMOジャンクション」を配信中。
Twitter:@M_I_N_A_M_O_
Instaglam:minamo_j


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